第四話『チンコの叫び』(後編)
「なるほど、それで?」
青ざめるタケヤたちを尻目に、チンタローが続きを促す。
「ネイピアと名乗る女の侍従騎士に『わざわざ王宮までセクハラをしにきたのですか?』と怒られて、不敬罪と公然猥褻罪で揃って投獄されることになったんだが、ドエームが『聖なるチンコを持っている仲間を連れてくるから、許してください!』と泣きながら土下座してな。それならということで、俺たちは股間に拘束具をはめられて解放されたんだ。猶予は七日間。頭の悪い俺にはよくわからんが、猶予を過ぎればチンコが大変なことになるらしい」
「ひぬぁ~あ! マッスロン! ちゃんと口裏合わせろって言ったろぉぉぉ!」
タケヤが名状しがたい悲鳴を上げて、マッスロンに掴みかかる。
「はっはっはっ。嘘つきは泥棒の始まりだぞ、タケヤ?」
「ミャーコ。ちょうどいい魔法があったら、タケヤとドエームを押さえつけといて」
「ほいほい。おい、風―。ちょっと力貸して。こいつらをふん縛るんだゾー」
ミャーコのいい加減な呪文の詠唱と共に窓から入り込んだ突風が、小さな竜巻となってタケヤとドエームを空中に巻き上げる。
「「ギニャーーーー!」」
「タケヤ! ドエーム! ちょっと、なんてことするんですのぉぉぉ!」
「うるさいなぁ。嘘ついたそっちが悪いんじゃないか」
空中で抱き合ったまま回転するタケヤとドエームをチンタローが睨みつける。
「おい、お前ら。なんで嘘ついたんだよ!」
「しょうがないでしょぉぉぉ! 本当のこと言ったら絶対、言うこと聞いてくれないと思ったんですよぉぉぉ!」
「そうだよぉぉぉ!」
「確かに私のしたことは不適切でした! でもね! 生理現象なんだから仕方ないでしょぉぉぉ! 突然、チンコを見せろと言われた私たちの身にもなってくださいよぉぉぉ! 私は悪くありませぇぇぇん!」
「まぁ、確かに……そうかも知れないけど」
タケヤとドエームを解放させようと、チンタローがミャーコに振り向くと、ミャーコがあることを思い出した。
「あっ、そうだゾ! おい、白いの。お前さっきズボンを下ろした時、ミャーコとモミーナの顔をチラチラ見てたんだゾ!」
「いぃっ!? いや、見てないです!」
「ウソつけ、絶対見てたんだゾ。明らかにミャーコたちの反応を窺ってたんだゾ! ミャーコは知ってるんだゾ! そういうの、『露出狂』っていうんだゾ!」
「なっ、何を言ってるんです! 上品で真面目な私にそんな趣味はありません!」
「上品!? 街に着くと、いつも夜には姿を消すお前がぁ?」
今度はタケヤがドエームに噛みついた。
「何を言ってるんですか、タケヤ! 夜遊びも紳士の嗜みです!」
「ンなこたぁ、どうでもいい! ていうか、チンコ審査のことは俺も変だと思ってたんだよ! クエストを見つけてきたのはお前だろ。本当はチンコ審査があることを知ってて、俺たちに隠してたんじゃねーのか? お前……王宮でチンコを見せる為だけに、クエストに志願したんじゃねーだろうな?」
「おい、白いの。正直に言え。正直に言わないと、二人とも下ろしてやらないんだゾ」
「どうなんだよ、ドエーム! 正直に言えよ!」
「ええ、知ってました! 知ってましたとも! ちゃーんと依頼書にはチンコ審査のことが書かれてましたよ! でも、そのことを言ったら反対されると思って! クエストに志願したのは、王女殿下にチンコを見せたかったから! ただそれだけです! 一国の王女にチンコを見せる機会なんて一生に一度、あるかないかだと思って! その娘の言う通り! 私は裸を見せるのが大好きな、露出狂です!」
「ドエーム、テメェ! やっぱり俺たちを騙してやがったのか!」
「最っ低! 信じられませんわ! あなたのせいで!」
「うぅ、だってぇ……! ウッウッウゥッ……ウワァァァーアァン! アゥッアゥオゥア゛ァァァァァァァーゥアン!」
突然、ドエームが奇声を上げて泣き出した。普段はすました端正な顔が、たちまち涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった。
遠心力でまき散らされた涙と鼻水が、チンタローとミャーコの顔に飛び散った。
「ドゥッフッハッハッハッハァーン! 誰にチンコ見せても! 同じじゃなくて! ウワァァァァァン! このチンコ……! チンコを……ヒック! 王女殿下に、見せたい! ヤバいと思ったんですがぁぁぁ! 欲望を抑えきれなかったんですぅぅぅ!」
全員がドエームの醜態にドン引きし、言葉を失った。
オールウェイズ・スマイルのマッスロンからも笑顔が消えた。
「実際に、チンコを見せた際の興奮は想像以上でしたぁぁ! 高貴な方にチンコを見せているという背徳感……それに、あの侍従騎士の冷たい口調と凍てつくような視線ンン! そりゃ、チンコも元気百倍になっちゃいますよねぇぇ! あぁ、そうそう! チンタロー! クエストを知った時、実はあなたのチンコこそ『聖なるチンコ』なのではないかと考えました! あなたを連れて行けば王女殿下にチンコを見てもらえるし、貴重なクエストも受けられるのではと思いましたよ! でもねぇぇ! もし、あなたを探している間にぃぃぃ! 他の誰かが魔龍を倒してしまったらぁぁぁ! 王女殿下にチンコを見せる機会が、永久に失われてしまうんです! チンタロぉぉぉ! あなたにはわからんでしょうねぇぇぇ!」
「わかってたまるか!」
「ついでにカミングアウトしておきます! 私はマゾです! 王女殿下の前で拘束されるなんて、二度と味わえない体験で最高でした! しかも、下半身を露出した状態で! 王女殿下の、あのゴミでも見るような視線を、思い出しただけでも……!」
「うわっ……こいつの言ってること、キモ過ぎ……!? どうしようもない変態なんだゾ、こいつ……! こんなヤツと口を利いたことを、ミャーコは猛烈に後悔してるんだゾ……」
「あっ……あぁん、いい……! その視線、その罵声! もっと軽蔑して! もっと罵ってくださいぃぃぃ!」
ドエームの欲望を余計に刺激してしまったミャーコが、ドン引きを通り越して放心状態になる。
タケヤと共に空中で回り続けるドエームの叫び声が室内に響き渡る中、モミーナが遠慮がちに声を発した。
「あのあの……チンタローさん、ミャーコちゃん。お二人を、そろそろ下ろしてあげては……」
「あ……モミーナ。分かったんだゾー」
気を取り戻したミャーコが軽く杖を振るとタケヤとドエームの回転が止まり、揃って墜落した。
激しい回転で脳震盪を起こしたのか、二人とも悲鳴すら上げずに床へ倒れ込んだ。
「タケヤ、ドエーム。しっかりしろ」
マッスロンが二人を抱き起こすと、ヤーラシュカが慌てて駆け寄る。
チンタローはしばしマッスロンの背中を眺めていたが、やがてモミーナとミャーコに振り向いた。
「二人とも、ごめんな。俺のせいで変な話に巻き込むところだった」
「まったくだゾ。チンタロー、仲間はちゃんと選ばなきゃダメなんだゾー。そんなことより、お腹が空いたんだゾ。お昼、食べに行くんだゾー」
「うん……」
部屋を出ようとするミャーコの後に続いて、チンタローが足を踏み出した時――。
「チンタローさん、ミャーコちゃん。皆さんを助けてあげましょう」
モミーナが、はっきりした声で言った。
振り返ったチンタローとミャーコを、モミーナが澄んだ緑色の瞳で見つめる。
モミーナの顔には、勇気、優しさ、不安の入り混じった表情が浮かんでいた。
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いよいよ、チンタローたちの冒険が始まります!
次回もご期待ください!