第三話『チンコの叫び』(前編)
「アナルニアで何があったんだ、タケヤ」
「話せば、『下衆・クリムゾン』に復帰してくれるか?」
「おぅ、考えてやるんだゾ。だから、さっさと話すんだゾー」
「ちょ、待てよ。なんでチンタローじゃなくて、お前が答えるんだよ!」
ミャーコがフン、と鼻を鳴らして傍らの杖に手をかけた。
白い狐の手をかたどった先端部にはめ込まれた、肉球を模した宝玉がオレンジ色の光を発した。
「バーカ。チンタローは今、ミャーコとモミーナの仲間なんだゾ。だから、お前たちのパーティーに復帰するかどうかはチンタローの一存だけでは決めさせないんだゾ」
「ミャーコの言う通りだ。だいたい、追い出しておいて今さら戻ってこいって、虫がいいにもほどがあるだろ。俺がどうするかは話を聞いてからだ」
そう言ってチンタローがモミーナに振り向くと、モミーナはためらいがちにうなずいた。
「……わーったよ」
タケヤとマッスロンがズボンを履いて、椅子に腰を下ろす。
しかし、ドエームはすぐにズボンを履こうとせず、横目でモミーナとミャーコの様子を窺っていた。
「どうしたんだよ、ドエーム。座らないのか」
「あ、あぁ……そうでしたね。座ります、座りますとも」
チンタローに促され、ドエームは落ち着かない様子でズボンを履くと、椅子に腰かけた。
タケヤは大きくため息をついてから、話を切り出した。
「五日前のことだ。俺たちはアナルニアの王都・ケツァーナの宮殿へ参内した。ドエームが見つけてきたクエスト……魔龍討伐の為だ。そこで俺たちは王女のウォシュレ殿下に謁見した」
「王女様が直接、会ってくれたのか? やっぱり最上位の冒険者パーティーだからか」
「まあな。アナルニアでは国内外から人を集めてるんだが、冒険者や傭兵なら誰でもいいってわけじゃない。呼びかけは上級冒険者や歴戦の傭兵だけに限って行われてたんだ」
一口に冒険者といっても、実力は様々だ。
モンスター討伐に僻地探検やダンジョン探索などのクエストを何度も成功させている実力者もいれば、新米冒険者や自称冒険者など実力の伴わない者もいる。
チンタローたちが旅をしているナロッペ大陸には大小の国家が存在するが、冒険者たちを管理する国際組織や国際的な格付けは存在しない。
その為、稼いだ賞金の額が冒険者の実力の指標とされていた。
タケヤたち下衆・クリムゾンは主に大陸中央部で活動しているが、パーティー結成からの二年間で熟練冒険者が十年かけて稼ぐほどの賞金を稼いでいた。
タケヤたちは賞金や報酬の額に見合うだけの困難なクエストを何度も成功させており、大陸中央部から南東部の冒険者で下衆・クリムゾンの名を知らない者はいなかった。
また、下衆・クリムゾンのメンバーはその優れた容姿からも冒険者や傭兵の間で有名だった。
「つーわけで、王女殿下から直々にクエストの詳細を聞くことになったわけなんだが……まさか、あんな審査があるとは思わなかったぜ」
「審査?」
「ああ。王家に伝わる『聖なる剣』を使えるかの審査だ。伝説の魔龍を倒せるのは、その聖なる剣だけらしい。なんでも、アナルニアの初代国王・オーベンデールが魔龍を封印した時に使った剣らしいが」
「えぇっ! オーベンデール王が魔龍を封印した剣?」
「知っているのか、モミーナ?」
モミーナが顔を紅潮させて何度もうなずく。普段の自信なさげな姿が嘘のように、生き生きとした表情だった。
「『アナルニアの剣聖』ことオーベンデール王と魔龍討伐の伝説を知らない剣士はいません! 千年の歴史を持つアナルニア剣術はオーベンデール王から始まったといわれています。オーベンデール王はアナルニアだけでなく、当時のナロッペ大陸最強といわれる、伝説の剣士なんですよ。まさか、千年前の魔龍討伐に使われた剣がまだ残っていたなんて……! すごい話を聞いちゃいました。オーベンデール王が編み出したという剣技の数々は、他国の剣術にも強い影響を……」
「それで、その審査ってのは? 体力テストとか?」
オタク特有の早口で蘊蓄を語るモミーナを無視して、チンタローが続きを促す。
「チンコ審査だよ」
「……はい?」
「聖なる剣を使えるのは、聖なるチンコを持つ者だけなんだ。つーわけで、俺たちは王女殿下にチンコを見せたんだよ」
室内に重いチン黙……もとい、沈黙が訪れた。
チンタロー、モミーナ、ミャーコが無言で顔を見合わせる。
「本当だよ! 信じろって!」
「……まぁ、いいんだゾ。話は最後まで聞いてやるんだゾ」
「えぇと……それで、俺たちは王女殿下に命じられてチンコを見せたわけだが……俺たちのチンコは聖なるチンコじゃないからって、お怒りを買っちまったわけだ」
「そして、我々は罰として呪いの拘束具を股間にはめられたのです。外して欲しくば、聖なるチンコを持つ者を連れてくるようにと。聞けば、聖なるチンコは謎の白い光を発するとか。その言葉であなたが立小便をする姿を思い出し、あなたのチンコこそが聖なるチンコだと確信したのです」
「チンタロー、恥を忍んで頼む。少しの間でいいんだ。下衆・クリムゾンに復帰してくれ。魔龍は俺たちが何としてでも倒す。報酬も全部お前にやる。お前たち、パーティーを組んだばかりなんだろ。悪い話じゃないはずだ」
「うん。よくわかった」
タケヤたちの顔が、ぱあっと明るくなる。
「さすがチンタロー! わかってくれると思ったぜ!」
「マッスロン。今の話、本当か?」
「少し違うな。怒ったのは王女様じゃなくて、王女様の侍従騎士だ。怒った理由も聖なるチンコを持ってなかったからじゃないぞ。ドエームが王女様にチンコを見られて、興奮してチンコを立たせたからだ」
再び、室内に重いチン黙……もとい、沈黙が訪れた。
タケヤ・ドエーム・ヤーラシュカの顔が一瞬で真っ青になった。
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アナルニア王都ケツァーナで何があったのか?
次回もご期待ください!