第二話『禁じられたチンコ』
「にゅふふふふ……にゃーっはっはっはっ! どうだお前たち! 恐れ入ったか! チンタローのチンコは凄いんだゾー!」
ミャーコが控えめな胸を張って高笑いを上げる。
「キャァァァーッ! なんてことするんですのぉ~!」
強烈な光の中、紫のローブの魔法使い――ヤーラシュカが悲鳴を上げる。しかし、手で顔を覆いながらも指の間からチラチラとチンタローの股間を見ようとしていた。
「はわわわ……みゃ、ミャーコちゃん! 女の子が殿方の服を脱がしたり、お……おちん……あのあの、殿方を殿方たらしめる大切なものを見たりしちゃダメですよぅ~!」
「見てないんだゾ? チンタローのチンコは外気に触れると謎の光を発するから、近くに寄っても見えないんだゾ?」
ミャーコがやけに説明的な言葉を口にしながら、ひざを曲げてチンタローの股間に顔を近づける。
「わっ! よせ!」
「ちょっと、ミャーコちゃん!」
モミーナが慌ててミャーコの肩を掴み、チンタローから引き離す。
「み、見えてないからって、お……おちん……あのあの、殿方のお股の主に顔を近づけちゃダメですよぅ~!」
「あのさぁ……俺、前から思ってたんだけど……『殿方を殿方たらしめる大切なもの』とか『殿方のお股の主』とか、『チンコ』って言うよりもかえっていやらしく聞こえると思うんだ……」
「何、言ってるんですか、チンタローさん! 私の言い方はいやらしくなんかありません!」
いやらしくないものを いやらしいと思える あなたのこころがいやらしい
「……という、吟遊詩人ヨツヲ=アイーダの有名なポエムを知らないんですか! いやらしいのはチンタローさんの方です!」
「あっ、はい……サーセン」
「ちょ、ちょっと……チンタロー」
モミーナの剣幕に押されて後ずさるチンタローの肩を遠慮がちに叩いたのは、白い法衣を着た施療師――ドエームだった。
「チンタロー……その、まずズボンを履いてくれませんか。まぶしくてたまりません」
「あっ、そうだった」
チンタローがズボンを履くと、部屋は再び薄暗くなった。
「うぅ……失明するかと思った……まだ目がチカチカする」
目を瞬きしながらタケヤがぼやき、ヤーラシュカとドエームも目をこする。
何故かマッスロンだけはウザいほど爽やかな笑顔のまま、特に辛そうな様子もなかった。
チンタローはタケヤたちが落ち着くのを待ってから、話を切り出した。
「話は戻るけど……俺のチンコが必要ってどういうことなんだ?」
「チンタロー。こいつらを助ける気か? 絶対、ろくなことにならないんだゾ」
「まぁその……話だけでも聞いてやろうよ」
ミャーコに冷たい視線を向けられながら、タケヤは居住まいを正し、小さく咳払いをした。
「隣のアナルニア王国で、伝説の魔龍が復活したって話は知ってるか? 俺たちは、その魔龍を退治することにしたんだ」
「魔龍……?」
チンタローが小首をかしげると、ミャーコが小さく咳払いをした。
「その話ならミャーコも知ってるんだゾ。千年以上前に封印された魔龍が復活して、アナルニアが大変なことになってるって。でもアナルニアの社会問題も、お前たちのクエストも、ミャーコたちには関係ない話なんだゾ。今、ごはん炊いてお茶を沸かすから、ごはんにお茶かけて食べるんだゾ」
「はっはっはっ。気の利くお嬢さんだな! ありがたくいただこう!」
マッスロンの瞳には、一点の曇りもなかった。
「マッスロン……今のは『帰れ』って意味ですよ。『お前たちが邪魔で食事の支度も満足にできない』という意味の、大陸南東部あたりで用いられるという皮肉です」
「なるほど、勉強になった! さすが頭の良いヤツは言うことが違うな! 頭の悪い俺にはできん言葉遊びだ。面白い言葉を教えてくれて、ありがとう!」
「うぅぅ……調子が狂うんだゾ……」
マッスロンの澄んだ青い瞳に見つめられ、ミャーコが肩をすくめる。
「あのあの……それはともかくとして、アナルニアの魔龍が、チンタローさんとどう関係するんですか?」
「まぁその……チンタローのチンコが、そのチンコの聖なる力が……魔龍を倒す為に必要なんだよ」
「俺のチンコが?」
タケヤはため息交じりにうなずいた。少し前まで申し訳なさそうな態度だったのに、次第に普段の横柄さが表れてきた。
「二つ、聞きたいことがあるんだけど……まず、魔龍を倒すのにどうして俺のチンコが必要なんだ? それともう一つ。俺と一緒に旅をしてた時は、俺のチンコを『光るだけで何の役にも立たない』とか言ってたじゃないか。どうして俺のチンコに聖なる力があるって知ったんだ?」
タケヤが舌打ちをして大きくため息をついた。
「チンタロー、こいつ感じ悪いんだゾー。人にものを頼む時は土下座して『何でもしますから!』って言うのがミャーコの故郷では当たり前なんだゾ。やっぱり、こんな奴の言うこと聞く必要ないんだゾー」
「ひぁぁぁ! 待って欲しいんですの! お願いだから、最後まで話を聞いてぇぇぇぇ! 見捨てないで欲しいんですのぉぉぉぉ!」
タケヤの後ろに控えていたヤーラシュカが、チンタローとミャーコの前に飛び出す。
その瞬間、チンタローとミャーコの喉元に向かって、胃袋の愉快な仲間たちがすさまじい勢いで飛び上がってきた。
「うぉぇぇぇぇ! くせぇっー!」
「こいつの口! ゲロ以下のにおいがプンプンするんだゾーーーッ!」
ヤーラシュカの口から漂う、想像を絶する悪臭。
すんでのところで胃袋の愉快な仲間たちを食道から押し戻したチンタローとミャーコの背中を、モミーナが優しくさする。
その横で、ヤーラシュカは今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「ハァ……ハァ……うっぷ。今のにおい……生理現象なんかじゃないんだゾ。これは、呪い……! そういえば、男どもの股間からも呪いの痕跡を感じるんだゾ」
「呪い……? おい、タケヤ……一体、何があったんだ?」
タケヤは顔をこわばらせると、ドエームとマッスロンにうなずいて見せた。
神妙な面持ちのドエームと笑顔のマッスロンがうなずくのを合図に、三人は同時にそれぞれのズボンを下ろした。
「きゃぁぁぁっ!」
モミーナが悲鳴を上げる横で、チンタローとミャーコはタケヤたちの股間を凝視していた。
「チンタローさん! ミャーコちゃん! お下品ですよぅ! 殿方の両足の間に位置する半島を、そんなにまじまじと見るなんて! って……あれ?」
チンタローとミャーコの真剣な様子に気づいたモミーナも、タケヤたちの股間に目を移した。
タケヤたちの股間には、黒革と金属で作られたブリーフ型の拘束具がはめられていた。
「この紋章……アナルニアの国章だゾ……! お前ら、何をやらかしたんだ?」
拘束具の正面、ちょうどチンコを隠す位置に『*』の形をした金細工の紋章が刻まれていた。
アナルニアの国章を刻んだ拘束具。
それは、タケヤたちがアナルニアの罪人であることを意味していた。
☆ 読者の皆様へ ☆
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
「面白いにゃあ」「続きを読みたいにゃあ」とお思いになりましたら、是非ブックマーク登録をお願いします!
また、ページ下部(広告の下)にあります『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』からポイントをいただけると執筆の励みになります!
『☆☆☆☆☆』が『★★★★★』に変わる時、鳥羽輝人の秘められた力が解放され、作品が更に面白くなり更新速度が向上します!
それでは、次回もご期待ください!