第十二話『輝け! 聖なるチンコ』
純白のドレスを纏った美しい少女が、穏やかな笑みでチンタローたちを迎える。
澄みきった青い瞳を向けられてチンタローは思わず頭を下げそうになったが、直前にネイピアから聞かされた言葉を思い出し、思いとどまった。
視線の先にいる少女が誰かは、一目見た時から分かっていた。
これが、王女様――。
チンタローは瞬きするのも忘れて、ネイピアに案内されるまま歩みを進めた。
以前はヤーラシュカと、現在はモミーナ、ミャーコと旅をしているチンタローは美しい女を見慣れている。
しかし、王女の美しさは彼女らのそれとは明らかに違っていた。
品位、高貴さ、風格――。
言葉では知っているそれらを、本当の意味で理解できたような気がした。
謁見の間には、閣僚と思われる男たちと青い軍服を着た近衛兵たちが王女を取り巻くようにして立っていた。
ネイピアに続いて王女の前へ進むと、その傍らに立つ白い軍服の男とチンタローの目が合った。
上質な仕立ての軍服に無数の勲章を着けた、見るからに屈強そうな長身の男。
年齢は五十歳前後か、ややカールした黒い髪に髭をたくわえた顔は威厳に満ち、灰色の瞳を据えた鋭い目は、その内に秘めた圧倒的な力を窺わせる。
その後ろに隠れるようにして立つ、眼鏡をかけた男が小柄で痩せていることも手伝って、軍服の男の存在感と威圧感が一層際立っていた。
チンタローは失礼にならないよう、そっと視線を逸らした。
チンタローはふと、王女をはじめ室内にいるアナルニア人に金髪が多いことに気づいた。
自身とヤーラシュカを除くと、黒髪はネイピアと白い軍服の男だけだった。
やがてネイピアが足を止め、チンタローたちを整列させた。
「魔龍討伐の為にお越しくださった冒険者の方々をお連れしました。こちらが先ほどお話したチンタロー殿。こちらのお二方が、お仲間のモミーナ=パイデッカー殿、ミャーコ=ケモニャンコ殿です」
横一列に並んだチンタローたちをネイピアが紹介すると、王女がチンタローの前に歩み出てその口を開いた。
「アナルニア王国第二百二十三代国王クミトリー九世が長子、第一王女にして摂政、第二百六十五代宰相ウォシュレです。魔龍討伐に名乗りを上げ、こうして参られたその勇気に。国王の名代として、国民を代表して。心よりの敬意と感謝を表します」
王女――ウォシュレが鈴の転がるような声で挨拶を述べると、ネイピアがチンタローに視線を送る。
「あっ……! は、はじめまして。チンタローです。本日はお日柄もよく……あっ、いえ! その……お、お目にかかりまして光栄です!」
何度も頭を下げながら、しどろもどろに挨拶するチンタローを、ウォシュレは穏やかな笑顔で見守っていた。
「わたくしも、こうしてあなたにお会いできたことを大変嬉しく思います」
返ってきたのは短い言葉。
しかし、その笑顔を前にチンタローの心も自然とほぐれてゆく。
「は、はい! ありがとうございます!」
チンタローの様子を見計らって、ウォシュレがモミーナに視線を移す。
「モミーナ=パイデッカーと、申します。王女殿下、こうしてお目にかかれますことを、誠に光栄に存じます」
「わたくしもです。我が国の危機に駆け付けてくれたこと、感謝に堪えません」
「はい。恐悦至極に存じます」
モミーナは緊張しながらも、チンタローよりは落ち着いて挨拶した。
「ミャーコ=ケモニャンコと申します! この度は、お目にかかれて誠に光栄です。仲間たちと力を合わせ、必ずや魔龍を倒し、この国に平和を取り戻してご覧に入れます!」
「なんと頼もしい言葉でしょう。あなた方の活躍に心から期待しています」
「はいっ! どうぞ、お任せを!」
ウォシュレは元気に応えたミャーコに微笑んでみせると、下衆・クリムゾンのメンバーたちに視線を向けて言葉を交わし始める。
堂々と挨拶を終えたミャーコが、勝ち誇ったような笑顔をチンタローとモミーナに向けた。
チンタローは苦笑して返した。
ミャーコの言動は、ただ神経が図太いだけではない。
その自信は幼くして数々の魔法を身に着けた高い実力に裏付けられていることを、チンタローもモミーナも知っている。
「下衆・クリムゾン。あなた方がチンタローたちを連れて戻って来てくれたことを、大変嬉しく思います。チンタローの見せた奇蹟については聞き及んでいます。それでは、王家に伝わる聖なる剣を持って来させましょう」
下衆・クリムゾンのメンバーとの挨拶を終えたウォシュレが、そう言ってネイピアに視線を送る。
「ネイピア。聖なる剣をこれへ」
「はっ!」
ネイピアは部屋の奥に向かうと、アナルニア国旗の下に置かれた漆黒の台に鎮座する一振りの剣を、両手で恭しく取り上げた。
チンタローはその剣の壮麗な拵えに目を奪われた。
束頭から鍔、鞘の先に至るまで金銀の細工が施された両刃の長剣は、まさに『聖剣』と呼ぶに相応しい外観だった。
剣を両手で水平に持ち上げたまま、ネイピアが静かな足取りで部屋の中央まで進む。
優雅で厳粛な姿を、その場にいる全員が静かに見守っていた。
「これが、初代国王オーベンデール陛下が魔龍討伐に用いた剣です。チンタロー殿。あなたがこの剣を使えるか、試させてもらいます。股間を露出した状態で、この剣を鞘から抜くのです。伝承によれば、剣を使う資格のある者が抜き放つと刃が強く輝くといわれています。それを以て、魔龍討伐の依頼が成立するものとします」
「は、はい!」
チンタローが頭を下げるのを見計らって、ネイピアが周りを固める近衛兵たちに目配せする。
三人の近衛兵がネイピアの後ろに立ち、守りを固める。
「チンタロー殿、こちらへどうぞ。私の前でズボンを下ろしていただきます」
「は、はい!」
「わかったんだゾ!」
チンタローとミャーコが静かに歩みを進める。
二人の動きを、その場にいた全員が固唾を飲んで見守っていた。
「チンタロー殿。私が声をかけるまではズボンに手をかけぬよう。わかりましたね」
「は、はい!」
「わかったんだゾ!」
チンタローがネイピアの前に立つと、ミャーコがチンタローのすぐ後ろに立った。
「それでは、私が『どうぞ』と言ったらズボンを下ろしてください。わかりましたね」
「は、はい!」
「わかったんだゾ!」
「……ちょっと待ってください」
ネイピアの手がミャーコの肩に触れた。
「ケモニャンコ殿。どうして、あなたまでこちらに?」
「えっ。だって、こっちでズボンを下ろしてって言うから……」
「そうじゃなくて……どうしてあなたがズボンを下ろすのですか? チンタロー殿は一人でズボンも下ろせないのですか?」
「ふふん、そうなんだゾ。チンタローはお子様だから、いつも大人のれいでぃのミャーコがズボンを下ろしてやってるんだゾ!」
そう言ってミャーコが控えめな胸を張る。
「おい! 何言ってんだミャーコ!」
「チンタロー殿、今の言葉はどういう意味です。まさか……」
「誤解です! ズボンくらい一人で下ろせます! それと、ミャーコとは何もありません! 極めて健全な間柄です!」
「……まあ、いいでしょう。ケモニャンコ殿は向こうに行っていてください」
「はーい。チンタロー、ミャーコがいなくてもしっかりズボンを下ろすんだゾ。一人でできる?」
「出来らあっ! ズボン下ろすくらい、ひとりでできるもん!」
「お静かに。殿下と閣僚の前ですよ」
「あっ……サーセン」
チンタローは横目で周囲の様子を窺った。
居並ぶ閣僚と近衛兵たちが、真剣な表情でこちらを見つめている。
モミーナとミャーコが、タケヤたちが、不安げながらも励ましの視線を送っている。
マッスロンは、いつものウザいほど爽やかな笑顔でこちらを見守っている。
そして――ウォシュレが穏やかな笑顔でこちらを見守っている。
「チンタロー殿。それではどうぞ」
「はい」
チンタローは大きく深呼吸すると、ズボンのベルトを外し、パンツごとズボンを下ろした。
「うおっまぶしっ!」
チンタローの股間から放たれた光に、閣僚の一人がたまらず声を上げる。
広々とした謁見の間が光に満たされる中、閣僚たちから歓声が上がり始めた。
「おぉ……これが、聖なるチンコの輝き! なんという眩しさか」
「なんという神々しい輝き。まさに聖なるチンコ!」
室内の空気が一変した。先ほどまでチンタローに向けられていた不安と懸念が、期待と賞賛に変わってゆく。
「皆様方。まだ、終わりではありません。チンタロー殿。剣を抜いてください」
「はい」
眩い光の中、チンタローはネイピアの手から両手で剣を受け取ると、右手で静かに抜き放った。
再び、大きな歓声が上がった。
鞘の中から放たれた刃が、ゆらゆらと青い光を発していた。
チンタローは切っ先を天井に向けて、剣を高く掲げた。
揺れるようだった青い光が一条の光となり、天井まで届いた。
「聖なる剣が……輝いている!」
「我々は今、伝説を目の当たりにしているのだ……アナルニア万歳、万々歳!」
「アナルニア万歳! 万々歳! アナルニア万歳! 万々歳!」
閣僚と近衛兵が感極まって叫ぶ中、チンタローは剣を手にしながら涙を流していた。
冒険者となり旅を始めて以来、これほどの賞賛を受けたことはなかった。
チンコが光る以外に能のなかった自身が、ようやく人の役に立てる。
この輝けるチンコが、人の役に立てる。
「チンタローさん! おめでとうございます!」
「チンタロー! すごいんだゾ!」
「はっはっはっ! やったな、チンタロー!」
モミーナたちの言葉が胸にしみる。
このチンコ――輝けるチンコの価値が初めて実感できた。
室内が歓声と拍手に満たされる中、ウォシュレがチンタローのもとに歩み寄った。
「チンタロー。確かに見届けました。あなたとその仲間たちに、正式に魔龍討伐を依頼します。どうか、この国を救ってください」
チンタローは静かに剣を鞘に戻し、頭を垂れた。
今の言葉を、きっと一生忘れないだろう――。
チンタローは涙を拭うのも忘れて、下半身を露出したまま感激に打ち震えていた。
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