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第十話『チンコ光る時』

 侍従騎士ネイピアは長剣の鞘に手を添えたまま、タケヤの目をじっと見据えていた。

 丸腰とはいえ、歴戦の強者であるタケヤが身動き一つできずにいた。

 チンタローたちも、近衛兵たちも、一言も発することなく凍りついた空気が解けるのをただ待っていた。


「はっはっはっ。ネイピア、この間はすまなかった。約束通り、聖なるチンコの持ち主を連れて来たぞ」


 沈黙を破ったのは、笑顔を取り戻したマッスロンだった。

 ネイピアが、姿勢はそのままでマッスロンに視線を移す。

 マッスロンはウザいほど爽やかな笑顔で、射るような視線を受け止めた。


「気安く呼ばないでください。マッスロン=マッチョナー殿でしたね」

「はっはっはっ。名前を覚えていてくれたのか。ありがとう!」

「あなたに礼を言われる筋合いはありません。お静かに願います」


 ネイピアは素っ気なく言うと、視線をチンタローに移した。


「ということは、あなたが聖剣を扱えるという……?」

「はい! チンタローです!」


 心臓が凍りつくような、冷たく鋭い目つき。

 チンタローは全身の震えを必死にこらえながら、努めて明るく返事をした。

 ネイピアはにこりともせず、長剣の鞘から手を離した。


「なるほど。して、コラック上級曹長。何やら、紹介状が云々という話が聞こえてきましたが」

「お騒がせして申し訳ない、侍従騎士殿。彼女が国境検問所の将校に紹介状を書いてもらって、入国したそうなのだが……」


 下士官――コラックが目でモミーナに続きを促した。


「はわわわ……あ、あのあの……も、もも……もも……」

「桃? ここは青果店ではありませんよ。王室と宮殿を守る近衛兵の詰所です」


 しどろもどろになるモミーナの目を、ネイピアがじっと見据える。

 張り詰めた空気が漂う中、ドエームはうらやましそうにモミーナを眺めていた。


「もも……申し訳ありませんっ! わた、私……国境検問所の、ベンジォ大尉に紹介状を書いていただいたのに……その紹介状を、失くしてしまったようなんです!」

「ほう。アナルニア軍の将校が書いた紹介状を、失くしたと?」

「はっ、はい! 申し訳ありません!」


 気が抜けたように、ネイピアが小さく息を吐いた。


「コラック上級曹長。邪魔をいたしました。後の処遇はお任せいたします」

「承知した。お騒がせして申し訳ない」


 短いやり取りの後、ネイピアはチンタローたちに背中を向けた。


「えっ……えっ……!?」


 遠ざかるネイピアの背中を目で追うチンタローの背筋に冷たいものが流れ落ちた。


「ちょ、待――」

「待ってください、ネイピアさん!」


 タケヤが言い終わるより早く、立ち上がってネイピアを呼び止めたのはチンタローだった。

 タケヤら下衆・クリムゾンのメンバーとモミーナ、ミャーコ。そして近衛兵たちの視線がチンタローに集中する。


「お静かに願います。ここは広場や公園ではありませんよ」


 足を止めたネイピアは振り返ることなく、言った。


「あの、タケヤたちと……俺たちはこれからどうすれば……いや、どうなるんですか!?」

「私が答えねばならないのですか? まあ、いいでしょう。まず、罪に問われていた下衆・クリムゾンのお三方は約束の期限内に戻って来たことで、ある程度の減刑となるでしょう。無論、股間の拘束具は外しましょう。主張すべきことがあれば、裁判の席で主張してください」

「ちょ、待てよ! 魔龍討伐は!? 俺たちはその為に――」

「あなた方にはもう関係のない話です。裁判の手続きは本日中に始まりますので、今はその準備をした方がよいかと」

「んなっ……!」


 タケヤが絶句した。


「そんな……あんまりです! タケヤたちは魔龍を倒す為に俺たちを連れて、この国へ戻って来たんですよ! 裁判って……そんなことをしている場合なんですか!?」

「チンタロー殿……でしたか。あなた、今……『そんなこと』と言いましたね」


 ネイピアが振り返り、チンタローと目を合わせたまま歩み寄る。

 再び室内に響き渡る靴音。これまでの無表情とは違う、明らかに怒りを込めた視線――。

 チンタローは、たちまち恐怖に凍りついた。

 自身を見下ろす、数センチメートノレしか違わないはずの女が、ずっと大きく感じられた。


「ここに来るまで、あなたたちも街の様子を見てきたはずです。国民はこの状況下でも努めて平静に、冷静に過ごしています。今は確かに非常時です。しかし……いいえ、だからこそ法は厳格に機能せねばなりません。私たち官公吏かんこうりが法と秩序を軽んずることは、この災害の中で法と秩序を守って暮らしている国民への重大な裏切りであり、国家全体のモラルを揺るがしかねません」


 ネイピアはそこで言葉を区切ると、うつむくモミーナに目を移した。


「さて。紹介状を失くしたというあなたは、軍法で裁かれることになります」

「えぇぇぇぇぇぇっ!?」


 モミーナが文字通り飛び上がって大声を上げた。

 あまりの驚きように、隣にいたチンタローとミャーコが飛びのく。


「お静かにと言っているでしょう。何を驚く必要が? 軍事に関わる罪なのですから当然です。それに……」


 ネイピアは再び腰の長剣に手を添えた。何気ない仕草だったが、剣を優しく労わるような、繊細な手つきだった。


「あなたも剣士ですよね。アナルニア軍の将校……いいえ、アナルニアの剣士が他国の剣士の為に書状を書くということは、国や民族を越えた同じ剣士としての信頼と尊敬の証です。あなたはそれを裏切ったのですよ。うっかりでは済まされません」


 噛んで含めるような、しかし一切の反論を許さない口調に、その場にいた全員が押し黙る。

 気の強いミャーコさえも反論できずにいた。


「誤解なきよう申し上げておきます。私は侍従騎士として、あなた方を王女殿下に謁見させる必要はない……いいえ、謁見させるわけにはいかないと判断いたしました。ヤーラシュカ=カーラディア殿、チンタロー殿、狐耳のあなた。お三方は拘留する理由もありませんので、お仲間とのお話が済んだら速やかにお引き取りください」

「そんな……一方的ですわ!」

「そうだゾ! 何の権限があって――」

「侍従騎士としての権限です」


 ヤーラシュカたちの反論を、ネイピアがばっさりと切り捨てた。


「『王族の身辺を警護する侍従騎士は、アナルニア王国の爵位がない者による王族への謁見に際して王族への直接的・間接的な危害が懸念されると判断した場合、王室の名誉が侵害されると判断した場合、その権限において謁見申請を却下することができる』と宮内省法第十五章第二十五条第二項に記されています。軍事機密を漏洩した疑いのある者、それを連れて来た者、その仲間たち。いずれも王女殿下に謁見させるわけには参りません。王女殿下と王室の名誉に関わります。百歩譲ってそれを抜きにしても、見たところチンタロー殿は戦力として期待できるとは思えませんしね」


 淀みなく言い切って、ネイピアが再びチンタローたちに背を向けようとした時――。


「侍従騎士殿、お待ちください!」


 声を上げたのは、ドエームだった。

 皆が見ている前で床に両手をつき、額をこすり付けんばかりに頭を下げていた。


「また土下座ですか、ロシュッツスキー殿。元はと言えば、あなたの行いから始まったことですよ」

「仰る通り。全ては私の愚かさから始まったことです。あの依頼を受けたのも私です。全ての責任は、この私にあります! ですから、どうか……」

「ドエーム、お前……」


 タケヤがドエームのそばに駆け寄る。

 仲間をかばい全ての責任を負ったドエームの声には、これまでにない切実さが含まれていた。


「ですから、どうか! 私のことも罵ってください! 侍従騎士殿! 逮捕される前に、私のことも罵ってください! お願いします! 何でもしますから!」


 顔を上げたドエームはハァハァと頬を上気させ、だらしなく開いた口からよだれを垂れ流していた。

 室内に訪れた数秒の間を置いて、タケヤがドエームの襟首を掴み上げた。


「ドエームぅぅぅ! テメェェェェェ!」

「んがぐっぐ……! だって、だってぇ……!」

「コラック上級曹長、直ちに彼らを取り押さえていただけませんか」

「承知した」


 コラックが席を立つと、詰所にいた近衛兵たちがあっという間にチンタローたちを取り囲んだ。


「君たち、おかしな真似はしない方が身の為だぞ。我々とて、腕に覚えのある冒険者の相手は一度や二度ではない」

「クソッ……! 万事休す、か……」


 タケヤはドエームを離すと、がっくりと肩を落とした。


「はっはっはっ。参ったなぁ。俺は頭が悪いから、どうすればよいかわからぬ!」


 そう言って笑うマッスロンの顔から一筋の汗が流れ落ちた。


「嘘っ……そんな……嘘ですわ……私はこれから、どうすれば……」


 自身とタケヤの間に割って入る近衛兵の背中を見つめながら、ヤーラシュカがぶるぶると震える。

 捕縛用の長い警棒を構えた近衛兵たちが、次々にタケヤらの退路を塞いでゆく。

 チンタローは必死に頭を巡らせた。状況がどんどん悪化してゆく。

 しかもネイピアの言うことは全て正論で、反論の余地は一切ない。


「はわわわ……あのあの……わた、私……ひぇぇっ!」


 モミーナの前に近衛兵が立ち塞がった瞬間、ミャーコはチンタローの目を見た。


「チンタロー……こうなったら、仕方ないんだゾ」

「……そうだな」


 チンタローが静かにうなずいた瞬間、ミャーコの足が床を蹴った。

 華麗な後方宙返り二回ひねりでチンタローの背後に回ったミャーコは、勢いよくチンタローのズボンを下ろした――!


「うわっまぶしっ!」


 チンタローの股間から放たれた白い光に、ネイピアたちの目が眩む。


「あなたたち……いきなり、なんてことを!」

「見たか! これが『輝けるチンコ』の力だぁぁぁ!」


 チンタローは股間を輝かせながら、高らかに叫んだ。

☆ 読者の皆様へ ☆


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