第一話『チンコは誰れの為に』
「チンタロー! 戻って来てくれよ、頼む!」
薄暗く、狭苦しい安宿の一室。
赤い鎧を着た茶髪のイケメン剣士が黒髪の青年に向かって頭を下げていた。
「はっはっはっ! チンタロー! 戻って来いよ!」
その横で、黒いノースリーブの上着を着た金髪の脳筋ムキムキマッチョマン格闘家が白い歯を輝かせて親指を立てる。
ウザいほど爽やかな笑顔は『殴りたい、その笑顔』という表現がぴったりだ。
「チンタロー! あなたの力が必要なんです、戻って来てください!」
白い法衣を着て白い帽子をかぶった男の施療師が手の平を合わせて青年――チンタローを拝む。
言葉こそ丁寧だが、その口調はどこか事務的でいまひとつ誠意が感じられない。
チンタローが無言で立ち尽くしていると、施療師の後ろに立つ、眼鏡をかけて紫のローブを着た女の魔法使いが思い出したように、黒い髪に手櫛を入れて視線を送ってくる。
「チンタロー。お願ぁい……アナタの力が必要なんですのぉ……ねぇん、戻って来てぇ~ん」
ローブの上からでも分かる、ボンキュッボンのむっちりボディをクネクネさせながら、ウィンクして媚びを売ってくる。
自分の美しさを誇るような仕草が、たまらなくウザい。
チンタローは小さくため息をついた。
茶髪のイケメン剣士――タケヤをリーダーとする最上位冒険者パーティー『下衆・クリムゾン』から追い出されたのは一ケ月前のこと。
「おい、チンタロー。お前もう、いらねーから」
「へっ?」
「『へっ?』じゃねーよ! おめーの居場所、ねーから!」
こんな、思いやりの欠片もない言葉で追い出しておいて、何を今さらと思う。
他のメンバーも誰一人としてチンタローを引き留めようとはしなかった。
とはいえ、チンタローは自分が追い出されたことは仕方ないとも思っていた。
チンタローは中肉中背の、一見どこにでもいそうな青年だ。
顔は悪くないが、美形というほどでもない。均整の取れた身体つきだが、特に強そうでもない。
外見と同じく、能力的に突出したものもない。
剣術は使えるが一人では下級モンスターを倒すのがやっとで、頭の回転も速くはない。
それに加え、チンタローは人並外れて小便の量が多く、移動中の立小便でパーティーの足を止めることが何度もあった。
タケヤに「早くしろよ!」と急かされながらチンタローが立小便をする光景は移動中のお決まりで、いつも笑顔のマッスロンを除いて、パーティーにはいつしか険悪な空気が漂っていた。
追い出されたことはショックだったが、他のメンバーと比べてつり合いが取れないと思っていたことも確かだった。
「よいぞ、来いよ! 戻って来いよ! 遠慮するな!」
チンタローが黙っていると、脳筋マッチョマン――マッスロンが笑い出した。
ウザいほど爽やかな笑顔からチンタローは目を逸らしたが、ふと腰のポケットに手を入れ、一枚のチケットを取り出した。
マッスロンから受け取った冒険者向けのクーポンチケット――『ゴットゥーチケット』と大量の銀貨がなければ、野垂れ死にしていたかも知れない。
マッスロンは戦うことと食べることしか知らない見た目は大人、頭脳は子供の超絶バカで笑顔がムカつくが、下衆・クリムゾンのメンバーでは唯一の良心といえる存在だった。
「あのあの……チンタローさん……」
考え込むチンタローにもじもじと声をかけたのは、金髪の爆乳エルフ――モミーナ。
「何?」
「チ、チンタローさん。はわわわ……え~と……あのあの……、わたし、わたし……きゃぁん!」
何か言おうとしたモミーナは何もないところで盛大にずっこけた。
身に着けた防具と両腰に提げた二振りの刀が床にぶつかって物凄い音を立てたが、その爆乳がクッションになって頭を打たずに済んだ。
「気をつけろよ、モミーナ……おっぱいがなければ即死だったかも知れないぞ」
「はわわわ……ありがとうございますぅ~」
モミーナがチンタローの差し出した手を両手で掴む。
チンタローは「パイは身を助く」という諺を思いついたが、空気を読んで口に出すのはやめた。
チンタローがモミーナを助け起こすと、タケヤがまた頭を下げた。
「チンタロー! お前を追い出したりして、本当に悪かった! 頼む、戻って来てくれ! お前を追い出したことを反省してる。俺たちには、お前の力が必要なんだ!」
「タケヤ、お前……」
イケメン剣士――タケヤの表情は必死そのものだった。
「チンタロー、待つんだゾ!」
話に割って入ったのは、チンタローの後ろで様子を見ていた褐色の肌に銀髪・ケモ耳の小柄な魔法使い――ミャーコ。
白いノースリーブのブラウスにキュロットスカートというスタイルはあまり魔法使いらしくないが。
「くんくん……ミャーコの鼻はごまかせないんだゾ! お前はウソをついているんだゾ! あと、それから! 『反省してま~す』とか言うヤツは、たいてい反省なんかしてないんだゾ!」
「ちょ、待てよ! 俺はウソなんてついて――」
タケヤが言い終わる前に、ミャーコが目の前に迫る。
「わっ! ちょ、待てよ! なんだよ!」
「ウソをついているかどうかは……こうすればもっとよく分かるんだゾ!」
言うが早いか、ミャーコはタケヤの頬をぺろりと舐めた。
「ひぬぁ~あ!」
「ミャーコちゃん! あのあの……女の子が殿方の顔を舐めたりしちゃダメですよぅ~!」
名状しがたい悲鳴を上げるタケヤ、顔を真っ赤にするモミーナ、呆気に取られるチンタローたちを尻目に、ミャーコが飢えた野獣のように目を光らせる。
「この味は! ウソをついてる味なんだゾ! ミャーコにはお前たちの目的が分かったんだゾ!」
ミャーコは華麗な後方宙返り二回ひねりでタケヤの前から飛びのいてチンタローの背後に回り――。
「お前たちの目的は……コレなんだゾ!」
チンタローのズボンをパンツごとずり下ろした――!
「きゃぁぁぁっ! やめてくださいよぅ~!」
モミーナが悲鳴を上げる中、薄暗かった部屋が真昼のように明るくなった。
「うおっまぶしっ!」
フルチンになったチンタローの股間から放たれた光に目がくらみ、タケヤが顔を手で覆う。
「お前たちの目的は、チンタローのチンコ! 『輝けるチンコ』なんだゾー!」
チンタローのチンコ――それは、輝けるチンコ。
聖なる力を持つ、この世にただ一つのチンコなのだ――。
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