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ファンタジー酒場の夜

作者: ピーター

 お越しいただきまして、ありがとうございます。

 世界観を描いていく上で書いていた物を短編でアップしました。

 この世界には色々な生き物がいる。

 人間、エルフ、ドワーフ、妖精、悪魔、有名なやつらはこんなところだが、街中に目をやればゴブリンとかいわれる子鬼に、豚みたいな顔をしたピグマン、牛みたいな顔をしているミノス、魔物と見間違えるような奴らもいる。

 そこに暮らす以上はそんな光景が当たり前、人と人に近い者、人ではない者、ごちゃごちゃと混ざっている事が当たり前な世界。そんな世界。

 日々、懸命に生きて死ぬ。日々、働き眠る。時に悲しみに暮れ、時に喜びに心躍らせる。ある者はまだ見ぬ彼方の地に希望を求めて旅にでる。ある者は安寧を求めて旅を終える。どこの世界も変わらない。

 旅人には一時の安らぎを、仕事を終えた者にはその労いを、悲しみに暮れた者には慰めを、喜びを得た者には祝いを、それぞれが、想いは違えども同じ物を求める。

 何を求めるのか、万人に共通するのは酒と飯だ。



 世界には魔物が数多存在し、自ら以外を食らう事しか考えない野蛮な動物もいる。文明を持つ生き物は集まって街を作り、迫ってくる危険から互いの安全を補いつつ細々と生きている。


「どんな世界だったとしても、酒と飯は生きていくために必要なんだ」


 年は40ほどか、濃い茶色の髪をオールバックにして、口元には整った髭を生やしている。身長も平均よりは少し高めで、渋さを感じさせる風貌をしている。少し額が広くなった額に汗を浮かばせながらフライパンを振り、低めでゆっくりと語る口調、1人つぶやく。

 この店を始めて15年になる。深夜には店を閉める所が多い中、明け方まで営業する事に信念を持ちこれまでやってきた。街の自警団や、街の周りの魔物や危険な動物を討伐する冒険者、同業の飯屋、仕事の終わる時間によっては食事を食べられない事もある。空腹のまま眠りにつかないために、同業が店を閉めた後も営業してこれまでやってきた。


「父さん、いつもそれ言うよね」


 明るい声をかけてきたのは娘のルアカ、父の髪を少し明るくした茶色い髪を後ろで一つに結んでいる。身長も女の子にしては少し高いかという程度、クリーム色のロングスカートに白っぽいシャツ、オレンジ色のエプロンで店を手伝っている。


「俺の信念だからな、ほら岩キノコの炒め物あがったぞ」

「お酒はなくても生きられると思うけど、外席のお客さーん、料理あがったわよー!」


 使い込まれた皿に盛られたのは、岩の上に生える岩キノコを香辛料と塩で濃い味付けに炒めた物だ、キノコの味はほとんどないが、熱を加えると表面はヌメリ帯びるがコリコリとした心地いい歯ごたえが楽しめる。この辺りでは良く食べられている料理だ。


「おまたせしましたー」


 外のテーブルで夜風に当たりながらお酒を楽しんでいるのは仕事を終えた同業のおじさん達。酒場をやっていると、店を閉めてから飲みに行ける場所はこの店くらいになってしまうから、酒好きな店主達は常連客だ。


「おー、ルアカちゃんありがとね」

「エスプレが、こんなカワイイ子のお父さんとは思えないなぁ」


 岩キノコをテーブルに置くと、酔ったおじさん達が好きに話している。

 この店は店内にはカウンターとテーブルで14席、外に折りたたみテーブルで3卓12席がある。今日のような涼しい日は外のテーブルが人気、今日も店内よりも店外のほうが人数が多い。


「名前で呼ぶとお父さん怒るよ、はいお代も確かに頂きました、ごゆっくり」


 ルアカが父の方を見ると、料理とお酒の用意に意識が向いており、聞こえなかったようだ。父の名前はエスプレ、女性のような響きとされる名前を嫌っており、マスターと呼ばないと不機嫌になる。不機嫌な父と過ごさなくてすみ、ホッと胸をなでおろして次の料理を運びに行く。



 お酒を飲んでいると時間は早く進み、夜更かしの時間帯から、街の見張りや夜泣きする赤子と母親くらいしか起きている人がいない頃になる。おじさん達も家に帰りお客さんが途切れたが、この時間帯は人がいない事が多いのでいつもの風景。

 真っ暗な道の奥から、ゆっくりとコツコツと石畳を叩く音が聞こえてくる。普段なら聞こえない音もこの時間帯なら耳に届く。


「客が来たか」


 マスターがポツリとつぶやくと、コツコツという音が店の前で止まる。ルアカが迎えるため立ち上がってドアの方へ行くと、客の方がドアを開けて入ってくる。


「こんばんわ、今日もいいですか?」


 客は纏っていた黒いローブを外し、壁から出ているフックに慣れた手つきで引っかけている。ローブの下は灰色の上下で上着のすそには教会の紋章が刺繍してある。教会にいる他の人達とは違って、その服やローブには沢山のポケットが付けられており、中には武器や法術の道具など色々と入っている。


「あら、墓守さんいらっしゃいませー」


 墓守と言っても仕事は沢山ある。主な仕事の一つが街中に出る魔物、つまりアンデッドや腐肉漁り共の対処がある。そいつらが出現する時間は夜だが、いつもいつも出ているわけじゃない。アンデッドも腐肉漁りも出ない平和な日はこうして深夜に来る。


「適当にすわりな」


 他にお客さんが居る事も気にしているのだろうか、墓守は他にお客さんがいない事に安堵しているようだ。街では墓守は不吉な存在とされていて、墓守とすれ違う時には露骨に嫌な顔をする人も珍しくない。


「うちはいつでも歓迎だ、来るなら気にしないで来い」

「いつもありがとうございます。まぁ仕事柄ですから、気にはしますよ」


 店によっては墓守の服装だと入店を拒否する所もあるくらいだ、葬儀や埋葬などの葬送の義式には同席し、アンデッドや腐肉漁りの対処もしていれば呪いや病原菌をもらってきているかもしれない。


「仕事柄、明け方が夕食の時間なので、食べて帰れるのは助かります」

「ご注文は?」


 ルアカが声をかけると。墓守も慣れた様子でメニューを見ないまま注文が返ってくる。


「ドワーフの火酒あります?あと、スープと干し魚の焼き物で」

「あれ?墓守さんお酒もお魚もいいの?」

「修業期間が終わったから自由なんです」


 普段あんまり笑顔を見せない墓守が、ニコニコと笑顔を見せている。ここの所はお茶と野菜ばかり注文していたから酒も肉も恋しかったのだろう。

 マスターは墓守の前に火酒の入った小さいコップ、香辛料を混ぜた塩を盛った小皿を置く。塩を舐めながら火酒が喉を焼く感覚を楽しむのが、この酒の楽しみ方だ。干し魚が出てくる頃には火酒も空になっている。


「すみません、割り酒を熱いお茶でお願いします」


 割り酒とはドワーフ達が火酒として飲むにはまずいと思った酒から酒精を抜いて混ぜた物。何かで割って飲むとそこそこ飲めるので安くて、扱いやすい酒としてどこでも置いている。


「はいよ」


 マスターが直々に割り酒のボトルと、お茶の入ったボトルをテーブルに置きに来る。自分で好みの濃さに割って飲むのが割り酒のスタイルだ。ルアカは店の椅子でウトウトとしている。この時間帯で暇なら眠気もくるだろう。

 

 

「ごちそうさまでした、お会計お願いします」


 墓守が食事とお酒を楽しみ終わって声をかける。ルアカはビクッと体を震わせてからすぐに立ち上がる。


「は、はい!今いきます」


 外は薄っすらと明るくなってきて、深夜の時間帯は墓守の他に客は来なかった。ルアカが起こされなかったのが何よりの証拠だ。


「毎度ありがとうございます。」

「この時間でも開いているので温まって帰れます。ありがとうございます」


 ルアカが代金を受け取ると、墓守は笑顔で帰っていく。ドアが開くと同時に外の冷たい風が吹き込んでくる。帰っていく墓守は冷たい風も気にしないで歩いて行く。


「な、飯も酒も必要だっただろ。さあ店じまいだ」


 マスターが箒や雑巾を出してきて、掃除を始める。ルアカも机を拭いたり、割り酒を樽からボトルに移すなど閉店中にしか出来ない作業をする。


「ねえ、お父さん、お客さんのあんまり来ない時間にね、お店あけてるの分かったかも」

「どんな理由だ」

「うち無かったら、墓守さんお腹空かせて体冷やして帰ったのよね」

「そうだろうな」


 割り酒のボトルの口を閉め終えて、戸締りをしながら続ける。


「市場も開いてないから、家にご飯無いとお腹空いて過ごすから。ここに寄れば幸せに帰れるから」

「正解だ」


 マスターもニヤッとした笑顔を見せている。確かにこの時間帯まで店をあけていると空振りになることも多い。だが、時には朝まで騒ぎたい奴、酒で悲しみを流したい奴が来る。


「いつでも来いよ、うちは夜通し空いてるぜ」

「お父さん、誰に言ってるの?」

「飲まないし、見えない客もいるんだよ」


 夜の時間が終わり、空は朝焼けに美しく染まっていた。



 

 

 読んでいただきありがとうございます。

 ファンタジーのファンタジーな感じを出す事は難しいですね、

これからも精進します。

 今後もよろしくお願いします。

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