和解の未熟練コース料理
「この料理がちで旨いよ。」
「誰が作ったと思う?」
「もちろん、父さんだろ?」
「いや、違う。」
「じゃあル・ジャポネ・フィアゼのコック?」
「まさか兄貴?」
「御名答。」
「すごいじゃないか。こんな旨い物作るなんて。」
「確かに旨い。だが、お金を払ってまで食べる価値があるかと言えばそうではない。」
「どういうこと?」
「海兵に例えるなら士官学校にいる金の卵に一定の知識や力があるが、現場では通用しないのと
同じって事。」
「経験のないひよっこは売り物にならない。そう言いたいんだね?」
「お前もまだまだ浅いな。今のうちから経験を重ねておく方法はいくらでもあるじゃないか。人より多くの経験や体験しておくことを、今やっておかないと、一生父さんには、追い付けないぞ。」
元治は雄大の料理を食べながら納得していた。
「良い上司ってのは、部下の心が分かるもんだ。少なくとも俺の時はそう言う人達ばっかりだった。」
「すげぇ大事な事が学べた気がするよ。父さんありがとう。」
「いや俺は、自分の経験談をベラベラしゃべっただけだ。」
「デザートです。」
「なぁ、元治?何で雄大のコース料理がお金にならないか分かるか?」
「経験?センス?」
「お前も何も分かっていないんだな。俺が、食べて不合格になったからだ。俺の味覚がそう判断をした。」
「え?それだけ?」
「それは、陸海空軍どこの世界に行っても同じだぞ。上の者が駄目と言ったら駄目になる。それが、最高の一品でもだ。」
「何か理不尽だね。」
「世の中は理不尽で溢れている。お前も部下を率いる立場になれば分かるよ。」
「そう言うもんかね?」
「アイスクリームとけちまう。食おう。」
二人は溶けきってベシャベシャになったバニラコンポートを口の中に流し入れた。本日のこの和解の席は元治にとって、人生でも大きな一日になった。それだけではなく、父と息子が分かりあえたという点でも大きな事だった。
「元治、お前には期待してるよ。きっと良い海兵になれるよ。」
「冗談はよしてくれよ。」
正宗はル・ジャポネ・フィアゼに。元治は防大の寮に戻って行った。
美奈子に報告すると、笑顔でこう言われた。
「元治ならきっと分かってくれるわ。」
ディナーに雄大の作ったコースを出させた事を言うと、美奈子はこう言った。
「あの子の舌は鈍感だからねぇ。まだ、未熟練なのに大役任せるなんて、貴方も人が悪いわねぇ。」
「いや、そうでもないぞ。」
と、正宗は雄大の腕をフォローした。
父と息子はやっと分かりあえた。ぶつかりあい、時に拳を交える。それは古臭いやり方かもしれない。それでも、親子の関係と言うのは綺麗事では治まりきらないものなのだろう。元治と正宗はそんな関係だった。




