正宗の真意
「防大生は卒業後、陸海空それぞれの幹部候補生学校に入学する。それまでは、士官でも下士官でも兵隊でもない。防衛大学校学生という身分だ。国費で学費はなし、おまけに月額約10万円の学生手当も支給される。全て国民の血税で、だ。幹部候補生学校に入校すると、やっと曹長という下士官の最高位の位が与えられる。だが、それまでは、ただの公務員だ。だから、戦闘が起きても何処にも配置されない。それが、1954年から運用されてきた防大の伝統だ。明治から昭和の昔にあった海軍兵学校に至っても、士官学校の生徒は兵力とは見なされなかった。そんな今の防大生のうちに命をかける覚悟を決めておけば、現場に配置された時にスムーズに入っていける。」
正宗が驚くほど防大の事を詳しく語るのに、元治はびっくりした。
「父さん?一つ聞いても良いかな?」
「何だよ?」
「中国軍と戦った時の事を聞いても良いかな?」
「俺の知ってる範囲なら良いぞ。」
「父さんは給養員長としてあの激しい戦闘をどう見たの?」
元治は、父親に聞いた事のない質問ばかりを、この際だから根堀り、葉掘り聞いた。その質問の中にはおおよそ正宗には答えられないと思われる質問もあったが、正宗は応えて見せた。二時間も話しかけた頃の事だった。見覚えのある顔の人間が正宗の取り計らいで現れた。
「兄貴じゃないか?」
「元治!お前何でここに?」
雄大はようやく、皿洗いから盛り付けを担当する部門を任されていた。
「お前達防大生は、たった1年で少尉に自動昇格だ。だが、レストランのシェフは2~3年かけてようやく一番下っ端から抜け出せる。まぁ、レストランじゃなくても、料理人はえてして下積み時代は長い。」
「そんな事より、親父も元治も腹減ってないの?」
「例のやつを二人前用意してくれ。」
「はい。分かりました。」
雄大もレストランのシェフの顔になっていた。
「あいつもようやくシェフの顔つきになってきた。」
元治は、兄貴の大変さが分かった。年中無休で2年間働き続けてようやくワンランク昇格出来る。とても自分には出来ない。自分は1回難関試験を突破しただけだ。elevatorはオートマチックに動いている。よほどの事がない限り、そのelevatorから脱落する事はない。きっと正宗はそんな事が言いたかったのだろう。と思った。
確かに雄大の通ってきた道は海軍の下士官を目指す様なコースかもしれない。あるいは類似しているのかもしれない。その苦労を知れば、正宗が口うるさく言っている部下の気持ちを理解するという事につながるのかも知れない。
しかし、元治は考えれば考える程、だから何が言いたいのかという気持ちになった。父の真意はどこにあるのか?それは、今の元治には少しハードルが高すぎたのかも知れないのであった。




