山島田正宗流海軍士官心得
5日後、元治は正宗に呼び出された。待ち合わせ場所はまたしても、ル・ジャポネ・フィアゼであった。
「また、この店かよ。っていうか俺も暇じゃないんだけど。」
「急に呼び出してすまない。ただ、少し話をしておきたいと思ってな。」
「この間殴られたのは、気にしてないよ。まぁ、俺も悪かったし。」
「父さんも、カッとなってしまったのは悪かった。すまん。」
「プライドの高い父さんが謝るなんて珍しいな。」
「元治、今日呼び出したのは、その事がメインディッシュじゃないんだ。」
「は?そうなの?」
「お前は今大事な時期にいるって事は分かっているよな?」
「何だよ、防大の教官みたいな台詞用意しちゃって、どうしたの?」
「お前が目指してる場所は父さんの知らない領域なんだ。父さんは海軍が海上自衛隊だった頃から、20年以上在籍していた。だから、この海軍という仕事の辛さは十二分に分かっているつもりだ。階級がものを言う世界において、防大生というのは、将来を約束されたプラチナチケットを持っている。そこにお前はいる。でもな、星の数だけじゃ部下は付いてこない。部下の話をよく聞き瞬時に適切な判断を下さなければならないからだ。自分の選択が間違っていたら、部隊や乗艦している艦はたちまち命を落としかねない。だから、これだけは言っておく。腹をくくれない、覚悟を決められないなら、やめておけ。」
「何でそんな事言うんだよ?好きにしろって言ってたのは親父じゃないか?」
「俺は、無能で部下に支持されない防大生上がりのエリートを星の数程見てきた。少なくともお前よりは、海軍での飯数は長い。お前には、そう言う奴らの様になって欲しくはないんだ。上に立つものは、部下に尊敬されていなければならんと思う。そう言う高いレベルを目指せ。分かるな?元治。」
正宗はいつになく真剣だった。まるで自分の苦労をさらけ出すかのように。
「親父は俺もその星の数程の無能な防大生と一緒にしてるって事?」
「ものの例えだ。何もお前を否定してる訳じゃない。それに俺は偉そうにお前に頭を垂れる士官じゃない。そんな俺が、否定するもしないもあったものではないだろう。」
「だったら何でそんな事言うんだよ。」




