飛んだ鉄拳我が子に響く
正宗はまるで昔の自分を振り返る様に答えを絞り出した。
「なぁ、元治?父さんが海軍を辞めたのか、その理由がそんなに大事か?」
「いや、もし自分が辞めたくなったら、どんな辞め方をすれば良いのかなって思ってさ。」
「士官候補生とは言え、務める前から辞めたくなった時の事を考えているなら、海軍に行くのは辞めた方が懸命かもな。」
「自分はどうなんだよ?海軍を夫婦揃って途中放棄したくせに適当な事言うなよ。」
「お前、俺の事はいくらでも侮辱しろ。だが、母さんを侮辱するのは許さん。」
ボコッ‼横須賀の夜空の下で乾いた空気音がした。正宗はつい元治を殴ってしまった。
「父さんに相談した俺が馬鹿だったよ。」
元治はそう言い残して、防大の寮に帰って行った。それからは、何で手を出してしまったのか、その事ばかりを考えて、後悔をして過ごしていた。
店の経営など、今やパソコンやスマホで何とでもなる。本当に上の空だった。そんな正宗に声をかけたのは、全ての事情を聞いた美奈子であった。
「駄目じゃない。手を出しちゃ。昔の日本海軍じゃないんだから。」
「知ってたのか?」
「確かに元治の言い方も悪いとは言え。」
「全て悪いのは俺さ。」
「でも、元治も反省してたわよ。」
「そうか。」
「あの出来事がなければ、僕の心は揺らいでいた。」
「そんな事を元治が言ってたのか?」
「一度はあいつに謝る機会も欲しいものだな。」
「今はまだ、早いわよ。もう少しお互いに反省して。」
正宗は何故あの時カッとなってしまったのかそんな事はとうの昔に気付いていた。将来性ある防大のエリートが、もう辞める事を考えていたのか。そんな気持ちではいつか何処かでつまづく。仮に部隊配備になり、部下にもしもの事があれば、どうするつもりなのか?
本当はそれが言いたかっただけである。国を守る事を志したならば、まず優先させるのは個人の意思ではない。そんな常識も分かっていない息子への苛立ちが爆発した。
ただ、それだけの事だった。自分とは環境が違い過ぎる息子のようなタイプが、部隊では一番馬鹿にされる。そんな事を元海軍士官のエリート息子に望むはずもない。
覚悟を決めて、国防という崇高な任務につこうと言うのだから、階級だけは一丁前だと言われるのは、何か虚しい。息子にそんな思いをさせたくない。
まぁ、どんな理由があるにせよ、手を出したら負けなのだ。だから、その事については元治に謝りたかった。その謝罪の機会はもうすぐ訪れようとしていた。




