山島田家最後の夕食会閉幕
厨房から出てきたのは、山島田家の長男雄大であった。まだル・ジャポネ・フィアゼに入ってからフライパンや包丁すら触らせてもらえなかった彼が、本日のオーナーシェフだった。
正宗も今日に至るまで分からなかったが、終始表情は穏やかだった。
「皆様、本日の料理はいかがでしたでしょうか?」
「さっすが雄大!プロの味じゃない。」
「正直、兄貴の作った料理とは思えなかったよ。」
「デザートも最高だったよ。さっすがだね雄大兄ぃ。」
「お父様にも負けてないかもね。グッドテイスト。」
「雄大、本日の料理は素晴らしかった。今後も期待しているよ。」
雄大の目には少し涙が浮かんでいた。家族の一年に一度の夕食会はこうして幕を閉じたが、正宗は最後にこう告げた。
「今年度の家族会を持って山島田家は、家族会を辞める。」
それは、突然の発表だった。理由は簡単だ。皆大人になったからという事だ。20年と言う月日は、子供が大人になるには、充分な時間である。その事については何を言う事もなかった。4月1日からは、またそれぞれ各自新たな気持ちでスタートを切る。
そして、この日もう一つドラマがあった。この夕食会の後である。
「なぁ、親父?ちょっと話があるんだけど良いかな?」
「珍しいな?良いぞ。いくらでも付き合うよ。」
「俺、色々考えたんだけど、防大卒業したら海軍に行こうと思う。」
「陸海空選ぶのは、今決めなくちゃいけないのか?」
「そうなんだ。っていうか、もう決めちゃったから事後報告なんだけどさ。海軍なら親父もよく知ってるだろうから、良いかなと思って。」
「海軍はキツいぞ?まぁ、エリートになった事ないから分からんが。」
「国を守るって言っても、何をどう守ったら良いのか分からなくなるんだよね。」
「その悩みは父さんにもよく分かる悩み事だな。」
「父さんが現役の時は"自衛隊"って名前だったんだよね?」
「そうなんだ。海上自衛隊。ちなみに陸軍は陸上自衛隊。空軍は航空自衛隊。やってる事は今と大して変わらんがな。」
「父さんは給養員だったんでしょ?中国と戦った時はそれでも怖かった?」
「実戦の怖さを知ってるのは、あの時現場にいた前線部隊の人間だけだな。」
「命が惜しくてやめたの?」
「まぁ、そう言う奴もいたが、たまたまタイミングがあったから、辞めただけだ。」
「タイミング?」
「お前の祖父の元海が亡くなって、ル・ジャポネ・フィアゼを継ぐ人間がいなくなったからだ。それから、海軍をやめようと決意した。ちなみにお前ら四人はまだ、一歳二歳の頃の話だ。大変だったぞ。」
「まぁ、まずは元気に青春を謳歌しなさい。」
「うん。ありがとう父さん。」




