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カレーなるNAVY ~7日に一度のお楽しみ~  作者: 佐久間五十六


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オーナーシェフとしての葛藤

 亡き父の後を追って月日は流れて行った。正宗は決してル・ジャポネ・フィアゼにいるスタッフの誰にも教えを乞わなかった。そこだけは正宗の譲れない一線であった。

 では、彼がどうやってそのマイナスを補ったか?その疑問を解決するのは、一冊のノートブックにある。父親の遺品整理で出てきた何十年も前のル・ジャポネ・フィアゼのレシピを、正宗が読みやすく書き直した物だった。

 閉店後の2~3時間を使って、無理になる手前まで父親のレシピを忠実に再現しようとした。そんな努力をスタッフは知っていて知らぬ振りをした。心の中では、どんなシェフが新たなオーナーシェフになるかと好奇心にかられたが、蓋を開けて見れば、努力家で寡黙な職人気質のシェフの鏡のような人間だった。

 海軍上がりで、父親の技術の継承など、何もしていなかったはずなのに、父親さながらの腕を持っている。フランス料理の高級レストランであるル・ジャポネ・フィアゼはミシュランの星が付く敷居の高い店だった。

 徹底した味への追及は、父親さながらのマイルドな柔らかさはなく、正宗の味は名刀正宗のような切れ味鋭いものに変わった。それでも客が離れなかったのは、創業者亡きル・ジャポネ・フィアゼを受け入れたわけでも、妥協した訳でもない。山島田正宗という新しいオーナーシェフの腕を認め受け入れたからである。

 星を二つ持っている今のル・ジャポネ・フィアゼの目標はミシェラン3つ星の奪還である。客足は好調である。むしろ増えている。客が正宗のフレンチを認めている証だ。

 これで、やっと自分のやりたい海軍仕込みのフレンチが、作れる。最高の食材があれば料理人は手出し無用。シンプルに捌き味付けをするだけで良い。そんな最高の場所で料理が出来る喜びを正宗は手にしていた。

 ここでは、わざわざ高い金を払ってフレンチを食べに来る。最高のperformanceを毎日続ける必要がある。だから、海軍時代とは違い料理にかける情熱が上がった。俺は長い海軍生活を下積み時代だと考える事にした。

 正宗は料理が出来る事の素晴らしさを改めて感じていた。シェフは沢山いたから、料理の仕上げだけに集中出来る。父親の死は単なるきっかけに過ぎない。父親が死ななければいずれ自分でフレンチの店を独立して持つつもりだった。

 父親の遺志で俺は今ル・ジャポネ・フィアゼのオーナーシェフをしているが、自分だってこのくらいの店を持つことは出来る。そんな思いで毎日生きていた。しかし、今は違う。この店で料理をする事が誇りになっているから。

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