若杉海曹長の極秘結婚
その頃、若杉海曹長もようやく人生の展望が開けてきた。それは、31歳にして人生のパートナーを手に入れた事であった。
お相手は一般人で会社員の文乃さん。という美しい女性であった。若杉海曹長は、真っ先に正宗に報告しようと思ったが、正宗が忙しいのは分かっていたため、美奈子に報告をした。結婚式も披露宴も身内のみで行った為、言葉だけの結婚報告となった。
その日の深夜、帰って来た美奈子と正宗の会話である。
「ただいま。今日もル・ジャポネ・フィアゼは大混雑。」
「機嫌良いじゃない?どうしたの?何か良い事でもあった?」
「俺はいつもこんな感じだぞ。美奈子こそ何だかニヤニヤしてるじゃんか?」
「こっちはちゃんと子育てしながら、グッドニュースを仕入れたのよ。」
「何だよ?隠すなんて汗くさいじゃない…水か。」
「仁君…じゃなくて若杉海曹長が結婚したんだって。」
「何だよ。それ。あいつ俺達に気を使って結婚式も披露宴も身内ですませたのか?」
「まぁ、色々あるんじゃない?予算の関係とか?」
「それはそうとも、報告の手紙位寄越せって感じだよな?電話の一本位さ。」
「それは、私も同感。電話越しに説教してやろうかと思った。」
「何だよ。電話はあったのかよ。」
「全部済ませてからの事後報告だけどね。」
若杉海曹長が正宗と美奈子を結婚式に呼ばなかった理由は二つある。一つは出来るだけ費用を押さえた式にしたかったという事。二つ目はサプライズで二人を驚かせたかった事であった。だから、手紙も電話の一つもなかった。結果として、山島田夫妻にとっては悪い印象を与える結果となった。
若杉海曹長は、後日二人のいる時(ル・ジャポネ・フィアゼは日曜日定休)に、山島田家を訪れた。そして、山島田夫妻を結婚式に呼ばなかった事を丁寧にわびた。妻の文乃と共に。
山島田夫妻は若杉海曹長の妻の文乃の美貌に免じて、全てを許した。正宗は、店にいるときは職人魂に火がつくのか寡黙な男であるが、家庭に戻れば明るく活発な良き家庭人に変貌する。人付き合いも良好であった。
文乃も聞いてはいたが、若杉海曹長には勿体無い位の美しい女性で爽やかな人物であった。二組の夫妻は、それからよく会うようになった。
「次はお前が父親になる番だな若杉仁海曹長!」
「茶化さないで下さいよ。ただ、四人も文乃には生ませませんけどね。」
「四人も産んだ私は化け物って言いたいの?仁君。」
「いや…そういう訳じゃないんですけど。」
「海軍出身の方って面白い人が多いんですね。」
いや、多分そんなことはない。民間会社だろうがエリート公務員だろうが、人間性は人それぞれで、個性が出るものである。陸軍だろうが、海軍だろうが、空軍だろうが、人格は100人100色だ。




