日本海軍 軍歌 海行かば
帝国海軍→海上自衛隊→新日本海軍となっても、歌い継がれているのは、海軍伝統の軍歌「海行かば」であった。
この日、護衛艦うみゆきでは、正宗と美奈子の送別会が行われていた。そこでの主役は正宗と美奈子であった。正宗は、この日盛大なお別れの会を開いてくれたうみゆき乗員に感謝の意図を込めて最後のトマトチキンカレーを作った。
会の進行は二人と仲の良い若杉海曹長だった。特にこれといったお決まりの文句があるわけでもなく、会の進行はかなり自由で、司会の若杉曹長に一任されていた。司会も緊張せず行えるし、二人に思い残す事がないようにさせるという、森滝1佐の配慮だった。
時間というものは過ぎ行くのもあっという間であり、名残惜しいものではあるが、予定していた送別会の終了時刻である17:00の15分前になった。5分前行動をモットーとする海軍において、15分前は10分前に相当する。若杉はマイクを持って一声を上げた。
「皆様、縁も竹縄ではございますが、新たな二人の歌として、最後に海行かばを皆様で、合唱したいと思います。」
すると、若杉曹長はテープレコーダーのスイッチを入れた。録音されていた海行かばカラオケver.が流れると、200名以上の海軍兵士の海行かばが、横須賀基地にこだました。
教育隊で死ぬほど歌わされるこの軍歌を歌う時は、何か特別な日の事であり、教育隊を卒業すれば、現場で歌う事はまずない。それでも、日本海軍のテーマソングは明治の健軍以来「海行かば」であった。
軍歌というとナショナリズムを高揚させるものととらえがちであるが、この歌はそのような低俗なものではない。あくまで兵士の士気を高める為のものであり、ナショナリストの使用意図とは、全く異なる。ただ、カラオケで、一般人を前に歌うのはやめておいた方がよろしい。ドン引きされるのは間違いない。
たった5分で歌い終わる「海行かば」であったが、なりやむ気配がないので、若杉曹長が、テープレコーダーの電源を落とした。すると、ようやく歌い終わる事に成功した。この歌は二人へのはなむけのエールソングだった。
うみゆき艦長森滝1佐の「歌い方やめ!」のコールが、発声されると、歌声はピタリと止んだ。
道半ばで海軍を去る者に対する暖かさはよーく二人には届いていた。「う~み~ゆかば~。」




