山島田正宗流 トマトチキンカレー作りの秘伝 その③カレーのルー
~秘伝その③カレーのルー~
仕上げの三点目として、カレーのルーを調合しなければならない。これだけは、正宗が若杉1曹に紙に書いて渡した。その紙にはこれでもかとスパイスの量や名前が、書かれていた。
使うカレーのルーの仕入れ先も、A社はどうで、B社はこうだ。C社はああだ。という具合に納入先の業者の違いについても書かれていた。
「覚えられません。」
「俺だって完コピ出来てた訳じゃねぇ。スパイス表を見てその日毎に決定していた。」
「これが一番大変じゃないですか?」
「たかが海軍カレーだとは言わせないクオリティの物は出してたつもりだ。」
「たかが海軍カレーだと思ってました。」
「給養員長になるつもり(というか正宗の後釜は若杉1曹)なら、プライドを持って事に臨め。」
「自分の仕事にはプライドを持っているつもりです。」
「お前はこれから給養員長になるんだから。森滝1佐には俺の方から推薦しておいた。」
「そうなんですか?!」
「じゃなければ、トマトチキンカレー作りにこんなに時間割かねぇだろ。」
「まぁ、そりゃそうですよね。」
「艦長から、直々に命令されたからな。」
「去る前に揉んで欲しい胡瓜があるって。」
「俺は胡瓜ですか?」
「ものの例えだよ。」
「でもどうして俺なんですか?」
「さぁな。分からないが、お前も人の上に立つ以上責任を持って事に臨まなくてはならない。」
「荷が重いです。」
「良いか若杉1曹、誰かがやってくれるなんて甘えは捨てろ。日本海軍の下士官なら、銃を持っているだけが軍人じゃねぇ事くらい分かるだろ。飯を食わせる銃を持たない兵士だって、正統に評価されるべきだ。」
「俺しかいないんですもんね?」
「護衛艦うみゆきの新給養員長は若杉1曹だ。」
「いつかは誰かが、やらなければならない仕事をやれる。それが出来て初めてスタートラインに立つんだ。包丁を握ったら、歩兵が銃を構えるのと同じと思え。敵は新鮮な食材。調理場は戦場。そう、俺達は闘っているんだ。」
「上手いこと言いますね。」
「明日の飯の為にキツイ訓練に耐える兵隊もいるんだぞ。それを忘れるな。」
若杉1曹は、正宗の言葉を噛み締めるように聞いていた。正宗の語る、給養員長としての心構えはいつ聞いても、心に染み渡るものであった。




