育休を俺にくれ
父、元海はこう言ってくれた。
「言いたい事があるなら、上官だろうが位の高い者だろうがそんな事は関係ない。自分の意思を貫くんだ。」
それはつまらない面子にこだわっていた、自分のちんけなプライドを粉々に破壊した。たった数分の電話であったが、父、元海のアドバイスが正宗をふるい立たせてくれたのである。
その後、正宗は森滝一佐に育休の申請をした。それが直ぐに通った時は嬉かった。正宗は、2ヶ月という短い間ながら、育休をもらえる事になった。
ただ、今すぐにという訳ではない。他の隊員との兼ね合いも、あるため一週間程かかってしまった。正宗は、美奈子にTELで育休の事を伝えると彼女もまさか男性海上自衛官の育休が通るとは、思っておらず、しきりにどんな裏技を使ったのか正宗をまくし立てた。
だが、正宗は裏技を使った訳ではなく、正当に自分の意思を貫いただけであった。それ以外の何物でもない。それから育休に入るまでの一週間程は、若杉給養員長代理に引き継ぎを行っていた。さすがに長年連れ添った相棒である。手取り足取り教える必要はなかった。
時の流れは変わっていないのに、そう感じるのは、余程子供たちと戯れるのを楽しみにしているという事だろう。
勤続20年以上で初めて取得した育休が、こんなに幸せなのかという事を、正宗は痛感した。これも、全ては父、元海のプッシュのおかげである。ただ、ようやく分かり合えたかと思われた親子に神様は非情だった。正宗はそんな事等、微塵も思っていなかった。
「若杉給養員長代理、これ頼む。」
正宗はうみゆきでの代理給養員長に若杉1曹を推薦し、森滝艦長からも承認を得ていた。
「あと、何か手伝う事ってありますか?」
「いやない。こんなもんかな。急な事で申し訳ない。」
「いえいえ。日頃から御世話になってるマサさんのたってもいない頼み事ですからね。断るわけには行きませんよ。でも、これは貸し一ですよ?」
「セコい奴だな。まぁ、後は頼んだ。もしも何か困った事が、あれば俺に直接TELしても、良いし、うみゆき幹部に聞いてくれ。大体の事は幹部に伝えてある。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、後は頼んだ。この辺でおいとましますわ。」
いつもの勤務を終え、横須賀基地近くの新居に戻った正宗を待っていたのは、父危篤の知らせだった。どんな想いが有っても無くても、せめて最期位はと、正宗は東京都内の病院へと車を走らせたのであった。




