落ち込む若杉1曹
若杉1曹は、復帰してきた山島田夫妻にジェラシーを感じていた。それは好きとか嫌いとかではなく、単純に羨ましかっただけであった。
結婚と出産の両方を二人に追い越されたのも、心の内では、何だよ、先に行ったと思い調子に乗りやがってとも思っていた。もちろん口には出さないけど。
それもそのはず、若杉1曹は付き合っていた彼女と別れていたようである。原因はよく分からない。推察するに、すれ違いでも起きたのだろう。
「若杉1曹、どうしたぼんやりして?彼女にでもフラれたか?」
「分かりますか?」
「おおよその事は検討がつく。」
「正直なところ、マサさんと寺倉3曹には、負けないだろうと思ったんですけど。」
「別に勝負したわけでも、賭け事をしたわけでもないんだから、良いじゃないか?」
「モチベーションがダダ下がりです。」
「若杉1曹、今夜夜予定あけとけ。」
「了解です。」
17:00、国旗が下ろされ本日の課業終了のラッパがなった。日本国旗に向かって敬礼をし、作業を止める。航海に出てない時は残業なしである。雑用の多い新入兵士以外は、これ以降は自由時間である。外出もありだが、門限は20:00まで、兵舎に住まない兵士は門限なしだ。話がそれた。
「若杉1曹、何か食いたいものはあるか?」
「いえ、特には無いです。」
「じゃあ、俺の独断と偏見で決めて良いわけだな?」
「はい。構いません。」
終始若杉1曹は、元気がなかったが、正宗が連れてきた場所に来ると、たちまち元気を取り戻した。
「覚えてるか?」
「忘れませんよ。て言うかまだ営業してたんだ。ここ。」
「ここは、俺と若杉1曹が、7~8年前初めて若杉1曹の誕生日会をしたイタリア料理店だ。」
「懐かしいなぁ。」
「ここのペペロンチーノが忘れられなくてな。」
「マサさん、行きましょう。もう我慢出来ません。」
二人はル・ザ・ノ・スで、大いに楽しんだ。飲んで、食って、暴れ…はしなかったが、正宗の作戦は項を奏した。何か一つ元気の無い若杉1曹と話がしたかった。だが、上官から部下に言葉をかけるのは、勇気がいるし神経を使うモノである。
「今日は付き合ってくれてありがとな。」
「こちらこそありがとうございます。元気を取り戻しました。」
二人は明日からも、うみゆきの名物給養員として、勤務に汗を流す事になった。そんな宴もたけなわになった時。
ピピピ、ピピピ
「山島田ですが?」
いつもほとんど鳴らない正宗の携帯が着信した。それに若杉1曹と正宗は驚いていた。




