人生最高の航海長
二人の会話は止まる事を知らぬ様だった。普段は夜に帰ったら、ろくすっぽ会話もせずにベッドインしてしまうすれ違い生活をしていたが、こういうきっかけさえあれば、話す事はいくらでもあった。
美奈子も正宗も、確かに芯を持った強い男女である。それは海軍での生活が長いからとか、そういう事ではなかった。
持って生まれた高い志というものは天性のモノであり、いくら強くなっても、簡単に身に付くものではなかった。
それは国防に携わる者にとって一番必要な能力であり、決してバカには出来ない崇高なモノであった。目を見れば分かるその芯の強さを海軍の入隊試験にいれても面白いだろう。
目は口程に物を言う。それは昔の格言でも何でもなく、現代人にも充分に当てはまるのである。
「正宗がこのまま昇進していったら、転勤とか多くなっちゃうのかな?」
「その心配が要らない理由を美奈子に教えてあげよう。」
「理由?」
「先ずは、俺は近いうちに海軍を辞める。二つ目は辞める奴に転勤も何も関係ないって事。」
「初耳で驚く事が沢山あるけれど、辞めてどうするの?」
「親父のレストランを手伝おうと思って。」
「何か、自分だけ楽しそうだね?」
「そうでもないさ。最も俺がレストランを手伝おうとしても、元海シェフの許可がいる。」
「どうして今なの?」
「タイミングってあるだろう?何事にも重要な事じゃん?」
「海軍を辞めて後悔しない?」
「航海は沢山したけど後悔はしてないよ。」
「親父ギャグとかいいから。」
「俺からしてみりゃあ、20年以上勤められるとは思ってなかったよ。」
「気付いたらって奴?何か分かる気がする。」
「俺はエリートじゃないからな。昔風に言えば叩き上げだからさ。20年以上いれば、そういう日常って身に染み込んでいるんだよね。」
「ル・ジャポネ・フィアゼでも、自営のレストランでも御客第1号は私だからね。雄大にも空雪にも渡さないから。」
「ああ、そのつもりさ。」
「楽しみにしてる。」
「他言無用。俺が海軍を辞めるのは二人だけの防衛機密だからな。」
「了解了解。」
「でも、海軍に入隊して良かったよ。」
「そうだね。」
「美奈子という最高の人生の航海長に巡り逢えたんだから。」
「私だって同じよ。こんなに料理の旨い給養員長は、海軍広しと言えども、正宗くらいしかいないだろうしね。」
「もう寝よっか?」
「うん、そうだね。寝よっか。」
「おやすみ。」
「おやすみ。愛してるよ。」




