披露宴に来ない親父の牛スジ煮込みカレー
東京のとある場所で、ル・ジャポネ・フィアゼはひっそりと営業を続けていた。
ただ、今日は貸し切りであった為、通常の営業は行っていなかった。貸し切りの理由は既に承知の通り、山島田正宗と寺倉美奈子の結婚披露宴パーティーが行われる為であった。
そこに父の姿がなかった事は、正宗にとってショックな話だった。支配人に聞くと、何やら遅れてくるという事であった。時間に厳しい正宗の父の元海が遅刻!?家族や友人100人位はいるだろうか、を招待して行われたこの披露宴パーティーには、若杉1曹や数十人の護衛艦うみゆき乗組員がいた。というかほぼ全員。
忙しすぎて挙げるのままならなかった二人にとっては、これは披露宴ではなく、結婚式と同じだった。正宗は、この日の為に、海軍伝統純白の詰め襟を用意し、花嫁の美奈子には海軍の制服ではなく、折角なので、結婚ドレスをサプライズで用意した。
コース料理な様だが普通に旨かった。だが、父の手料理でないのであれば、これはミシェランの星の有り無しに関係なく、二流のレストランと同じだった。
きちんと自分が、電話したから父元海も、顔を出しにくいのかもしれないが、父の元海はこのル・ジャポネ・フィアゼの総料理長でオーナーシェフである。何故息子の晴れ舞台に来ないのか理解に苦しんだ。
「マサさん、さっきからどうしたんすか?顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」
長年付き合っている一番弟子である若杉1曹は、正宗の不安や戸惑いの表情が、直ぐに分かった。正宗は大丈夫だと言い張ったが、無理をしている事は直ぐに分かった。
一通り料理も食べ終えて、さて、二次会行きますか?的な空気に包まれていた時だった。
「もう一品食べては頂けないでしょうか?」
という慌てた司会者の声が、ホールを包んだ。
「此方の料理は牛スジ煮込みの絶品カレーでございます。」
「当店舗ル・ジャポネ・フィアゼの総料理長にして、創業者の山島田元海が、一週間煮込んで作った力作であります。どうぞ御賞味下さい。」
これを聞いた正宗は、今までの不満や不安などが、どこへ行ったのやらと、出されたカレーを食べた。(旨。俺のトマチキカレーなんてレベルじゃねぇな。半端ない。)あれだけのコース料理を食べて、まだ入るスペースがあるとは、流石は元ミシェラン三ツ星の実力者だ。
この芸当がこなせるのは父の元海しかいない。
「山島田元海って…もしかして、マサさんの親父さんだったんすか?」
「花嫁にも隠し事するなんてズルい奴ね。」
「美奈子、すまん黙ってて。」
「貴方より美味しいカレーを作れる人がいるとは。そっちに脱帽だわ。流石は御父様ね。」
「このカレーを食べてて、幼少期を思い出したよ。幼少の頃から、週末になるとどんなに店が忙しくても、この牛スジ煮込みカレーだけは作ってくれた。」
その味を正宗が忘れるはずがないのである。
「このカレーマジで旨いっすね。」
「愛する双子ちゃんにはまだこのスパイシーさはお預けだね。にしても、元海シェフどこへ行ったのかな?事故にでも巻き混まれてなきゃいいけど…。」
「俺はいいんだけどさ、美奈子と子供たちや、美奈子のご両親に悪くてさ。早く来いよ、馬鹿親父!いつまで意地張ってんだよ。」




