自信作 夕食会成功
夕食会のオーナーシェフには、護衛艦うみゆきの給養員長山島田正宗3尉が選ばれた。
「マサさん、何を作るんですか?」
若杉1曹はいつものように聞いた。
「米国側からは特に何かこれというようなメニュー指定はないんだがな。」
と、山島田はつぶやいて言った。
「マサさん、トマトチキンカレー作ってみたらどうですか?」
若杉1曹は面白半分で言ってみた。
「時間もないし、そうするか!」
山島田は若杉1曹の提案を受け入れた。アメリカ人にライスカレーが食べられるのか、試すのも面白いだろう。そう考えていた。
「夕食会は3時間後に始まる。若杉1曹、仕込み始めるぞ‼」
そう言って、黒板に本日のメニューを殴り書きして、厨房に張った。
「トマトチキンカレーにフルーツポンチ」まるで、小学生の学校給食の様であった。夕食会には、舌の肥えた米国海軍士官だけではなく、米国政府の役人や高官も来る。米国人以外が夕食会のオーナーシェフを勤めるだけでも異例なのに、そのメニューはもっと異例だった。
護衛艦うみゆきでは、いつも2~3時間で、金曜カレーとしてトマトチキンカレーが作られていた。その為、時間の心配はいらない。150人前を作り上げるのは、日常茶飯事であった。
若杉1曹をはじめ他のサポート下士官も、皆給養員であり護衛艦で大量の飯を作っていたため、山島田の指示にしっかりとついて来られた。
これがコースメニューや、レストランで出される様な料理だったら、こう上手くは行かないだろう。いつも作り馴れているものを当たり前の様に作る。それが日本海軍給養員の素晴らしさであった。
本日のメニューはトマトチキンカレーです。と言った時の米国海軍士官の顔は、驚きに溢れていたが、一度食べれば、皆満足している様であった。後に出されたフルーツポンチも、カレーで、火照った体を冷ましてくれ、絶妙なコンビネーションで、夕食会は大盛況のうちに終わった。
山島田の周りには、ミルウォーツ少将や米国国防総省の高官が何人も訪れた。中にはこのトマトチキンカレーのレシピを教えて欲しいという、米国海軍士官もいた。山島田は、心惜しまずメニューを教えてあげた。これが後に米国海軍内部でブームとなるのだが、それは少し先の話であった。
米国海軍の士官や役人に、その腕を遺憾無く発揮した夕食会は、大成功で幕を閉じる事になった。
米国滞在は予定ではあと1日だが、その前に少し、東京の様子を伝えておこう。秋も終わりそうなその頃、東京では毎年恒例のミシェランガイドの掲載店が発表されていた。そこでは、山島田に馴染みの深いある店が掲載されていたことで話題になっていた。




