追い詰められたネズミ
「マサさん、ご飯炊けてますか?」
「おう、炊けてるぜ。ほいよ!」
「めちゃくちゃ忙しいって事は戦闘も、落ち着いたんですかね?」
「分からん。だが今が定時の飯の時間じゃないってのは、確かだな。」
「マサさんはいつも冷静なんで尊敬しちゃいます。」
「こんな時におべっかはいらねぇよ。はい、一人前あがったよ!」
厨房は、大慌てだった。丸1日寝ずや食わずの戦闘職の配置の隊員が、パチンコ玉のように、次から次へと食堂に列をなしていたからである。
「ここが踏ん張り所だな。」
山島田ら給養員にとって、敵は外国兵ではなく、食材と味方の胃袋であった。とにかく眠らずにハイになった隊員達を落ち着かせるには、美味いものをたらふく胃袋に詰め込んでやる。そうすると、眠気が来て寝る。寝てない人間程、扱いに困るものはない。
特に戦闘中はいつ寝れるか分からない。そんな状態では冷静な判断が出来ない。そう判断された人間は、交代で2~3時間の仮睡眠をとらせる。そういう人間が多くいるという事は、それだけ戦闘が落ち着いている何よりの証であった。
大きな被害もなく、ほぼ無傷で海戦が終わろうとした時だった。うみゆき後方部に、対艦ミサイルが着弾したとの情報が入った。幸い軽い被害で済んだものの、うみゆき乗組員の肝を冷やす事態となった。
「ここは、何度も言うが戦場だ!気を抜くな!」
艦長や航海長は、しきりに乗組員に言って聞かせた。アメリカ海軍巡洋艦2隻被弾炎上、海上自衛隊側はほぼ無傷。というかすり傷程度の損害で、中国海軍を壊滅に追いやったのは、奇跡と言っても過言ではなかった。
最後に勝負を決めたのは、兵器の精度であった。うみゆきはいまだ小競り合いの続く、現場海域を離脱し、佐世保基地に一次帰投する事になった。幸い、エンジンやスクリューに損傷はなく、航行に支障はなかった。
黄海海戦は、日米の大勝利に終わった。アメリカ軍と日本政府は、大規模な戦闘は終了したという、事実上の勝利宣言をした。
だが、アメリカ海軍高官や自衛艦隊司令は、あることを懸念していた。2隻の原子力潜水艦が、残存している可能性が高く、追い詰められたネズミのように、SLBMを発射するのではないかと危惧していた。
日米合同司令部は、対潜水艦哨戒機を上空に残し、全艦隊を一旦佐世保基地に帰投するよう命令を出した。




