ストレートチェイサー
「冴えない顔ですよ。山島田三尉。」
久々に笑顔になった。
人との接触を避け、グルグル巡る20年分の想いを整理するのに、5日間では短すぎたのだが、何とか気持ちの整理をつけて、横須賀基地に戻って来たのであった。
翌日、山島田が護衛艦うみゆき艦長森滝竜彦一等海佐の所へ、転属の挨拶に行こうとした所、若杉一曹と寺倉三曹が、いたのであわてて、森滝一佐に訪ねてみた。
「こちらの二人は?」
「本人達たっての希望で、うみゆきに戻りたいそうだ。」
山島田は複雑な気持ちであった。嬉しい反面苛立たしい所もある。それは彼等に対してではなく、気まぐれを許す海幕に対してであった。
給養員の場合艦が変わる事で、任務が大きく変わる事はなかったが、仮にも給養員長という重要ポストがとったりつけたりするように変わられては、部下が困るのであった。
ともあれ、長年親しんで来たうみゆきでの給養員長復帰は、喜ばしい事であった。若杉一曹との関係がこじれなかったのは、不幸中の幸いであった。
狭い艦の中で、気まずい関係の人間がいると、やりにくい事この上ない。そういう意味で、うららから戻って来た二人との人間関係が悪くならなかった事は、他の人間にも多少は良い方に関係した。
その転属初日の夜の事であった。
「行くぞ!若杉一曹。」
山島田の声だった。
「当直の引き継ぎを終わらせてから行きます。」
「いつもの場所で待ってるからな!」
いつもの場所とは、横須賀基地内にある隊員クラブではなく、どぶ板通りにあるバーだった。海上自衛官たるものおしゃれに行かないといけない。まぁ、それはジョークとしても、このバーは、二人にとって、真剣な話をしたい時に来る、特別な場所だった。
「マスター、ストレートチェイサーで。」
「ちは~。」
「おー、来たか。早いな流石に。」
「マスター、バーボンをロックで。」
「はいよ。お待ち。」
二人は、乾杯した。
「今日は無礼講だ。」
「分かりました。」
二人は想いのたけをぶつけ合った。あくまで冷静に、酒の力を借りて言いにくい事も、全て話した。これからも、よろしくな。と、そう握手をして、うみゆきでの勤務再開を祝った。
森滝一佐は、3人にうみゆきの外の世界を見せる為に、そして成長の速度を上げる為に、うららに異動を命じたと、後に語っている。
山島田が暴力沙汰を起こす事も、目論んでうみゆきに戻って来るのも、折り込み済みだった。
そんな事は、3人が知るはずもなく、森滝一佐の胸の内からでる事はなかった。
「もやい、放てー!」
うみゆきは、環太平洋諸国合同軍事演習のため、オーストラリアのダーウィンに向かう事になった。日本の海上自衛隊は、オブザーバーとして、参加する毎年恒例の演習であった。




