懺悔
その言葉は、心に突き刺すようなインパクトのあるものだった。
普段何気なく過ごしていると、見過ごしてしまうような事を、山島田はズバズバと投げ込んで来た。
「朝鮮半島は、今や中国軍の実効支配下にあるも同じだ。明日は我が身、日本国もどうなるかは、分からん。アメリカ軍がいなければ、とっくに攻め入れられた、だろうと思う。うららのようなヘリ空母で、まともに戦えるなんて、思っているやつは、ここにはいないさ。」
若杉一曹は、反論出来ずに考え込んでいた。
「難しく考える事はない。俺達は、公務員だ。特別職のな。国を滅ぼそうとしている勢力に、対して攻撃を加えて、排除する。特別な事は何もない。」
若杉一曹が、ここで口を開いた。
「どうしてそんなに冷静でいられるんですか?」
その質問は納得出来ない。飲み込めない気持ちをダイレクトにまとめたものだった。
「どういう意味だ?俺は、幹部自衛官だぞ。うらら唯一の士官給養員だぞ。」
「たとえ、今おかれている状況は、どうあれ国防という仕事を、そんな分かったように、言うのはやめて下さい。」
「ボコッ‼」
反射的に山島田は手を上げてしまった。
「好きなだけ殴ったら良いじゃないすか?」
「すまん。」
隊員クラブでの出来事で、第三者の目があった為に、後日山島田、若杉一曹の両名は、うらら艦長長島一佐に呼び出され、若杉一曹をうららに残し、山島田は、護衛艦うみゆきに戻し、停職一週間とした。
自衛隊と言えども、暴力はいけない。そんな御時世であった。
山島田は、海上自衛隊に入隊して以来、初めての大型連休となるのは、笑えない状態で、あった。土日休みとは言え、給養員長になってから、有給すらまともに取得出来ないでいた。
停職期間はたばこをワンカートン買って、海で釣りをすることにした。海を見つめながら、自らを戒めていた。たばこに火を付けては、釣れないリールを巻き直す。そんな動作を繰り返した。たまに釣れるゲドーの処理をしつつ、クーラーBOXにいれる。そんな日々を5日繰り返した。
近くにあった銭湯で、風呂に入っている間以外は、ずっと浜辺にいた。部下を殴ってしまうという反省の意味でもあったのだろうか。
若杉一曹との関係がギクシャクしてしまった事を嘆いていた。
給養員として、自分と似た臭いのする部下を、育てるチャンスを自ら不意にしてしまった。それだけが、悔いに残った。責任ある者が酒に煽られ、あろうことか、部下を殴ってしまうというのは、何がどうなっても、山島田はやってはいけない事であった。




