自衛官としての喜び
防衛大臣阿部強は、この事態を受けて、自衛隊全部隊の警戒レベルを最大のレベル6に引き上げ、最悪の事態に備えさせていた。
自衛艦隊の役割は、中国海軍の空母打撃郡と原子力潜水艦を好きにさせない事であった。
P-3C哨戒機もフルに動員し、アメリカ海軍太平洋艦隊(第七艦隊)と伴に作戦に当たった。
そんな努力の甲斐もあって、中国海軍や陸軍の日本本土上陸、本土決戦という最悪のシナリオには至らなかった。
この朝鮮危機は、いつまでも安定しない北朝鮮に、中国軍が業を煮やした結果発生した、政治色の強い戦いだった。
直接対峙する事は、なかったが、全自衛隊員が、戦争を覚悟し、米軍との連携(絆)を強める結果になった。
「やはり、政治決着でしたね。」
若杉一曹が、嬉しそうな顔で山島田の所へやって来た。
「正直に言って、今の日本は韓国より弱い。」
「どういう意味ですか?」
「自衛隊の位置付けも、中途半端で肝心の自衛隊員も、自衛隊法でレームダック。これでは張り子の虎だよ。」
山島田は、吐き捨てるように現状の日本を嘆いた。
「中国軍が日本に来なかったのは、抑止力が効いたからですよね?」
若杉一曹は、必死で日本に力があった事を、山島田に認めさせたかった。
「それは違う。」
山島田の答えははっきりしていた。
「アメリカ海軍の2隻の原子力空母がいたおかげだ。」
確かに、山島田の言う通りだった。フィース・ハロルド、ローズホナパルトという2隻の空母が日本海と、黄海にいたため、無理に勝負するのを避けた、得策ではないと、後に中国海軍の幹部は語っている。
「まぁ、そんなにいきり立つ事でもないさ若杉一曹。戦争にはならず、政争で治まったのだから。」
ポンポンと、若杉一曹の肩を叩いて、談話室を後にした山島田であった。日本はどこまで言っても、アメリカの犬なのか?そんな歯がゆさを、青年下士官は覚えていたのであった。
その夜若杉一曹は、山島田に連れられ隊員クラブにいた。
「俺は入隊して20年だぞ!この海上自衛隊という組織の酸いも甘いも、知っている。」
珍しく山島田は、酔っていた。
「マサさん、その辺で酒止めとかないと明日の勤務に響きますよ?」
「若杉一曹。自衛官の喜びって何だと思う?」
山島田は急に真面目になった。
「国を守る事でしょうか?」
山島田は、首を横に振ってこう答えた。
「敵を倒して、名声を得る事さ。」
その答えを、予想していなかったかのように、若杉一曹は不思議そうな、顔をした。
「人によって解釈は違うが、自衛隊だって暴力装置であり、所詮は人殺しを防ぐ為の部隊だ。つまり、時と場合によってはヒトを殺さなければならない時もある。」




