エスコート
数年に一度の艦上レセプションを、うららでやるとは。そんな事を言っても、決まったものは変えられない。
午前中の観艦式は成功に終わった。と同時にレセプションはスタートした。艦上レセプションと格好つけた名だが、実際は海上自衛隊の制服組幹部と、防衛大臣や内閣総理大臣ら、重要閣僚との昼食会であった。
まぁ、作る側としては、大役に変わりはない。
安部防衛大臣の音頭で、艦上レセプションは幕を開けた。海上自衛隊名物のラッパの音色が響く中、ヘリコプター搭載型護衛艦うららに入って来たのは、普段軍艦とは無縁の、背広組と呼ばれる防衛省の官僚であった。制服組トップの海上幕僚長が、最後に入って来た安部防衛大臣をエスコートしていた。
海外では海軍大将扱いの海上幕僚長も、うららの上ではただのおじさんである。そんな海上幕僚長にエスコートされる防衛大臣は、なんと羨ましい事である。と思っていたが、そんな事もないようである。
話がそれたが、いよいよ昼食会、つまり艦上レセプションの始まりである。山島田渾身のトマトチキンカレーが、皿に盛られて出された。運ぶのは、うららの給養員達であった。
安部防衛大臣はじっと皿を見つめていた。
「では、温かいうちにいただきましょうか?」と、海上幕僚長に促されると、
「いただきましょう。」と全員がスプーンをとった。
「これが海軍カレーですか?かなり想像していたカレーとは違いますね。」
安部防衛大臣は、ちょっとガッカリしたように言い放った。
「この艦では、このカレーを食べるんですよ。味は一級品です。」
「海上自衛隊では、基地や艦艇毎に特徴のあるカレーを給養員長が、決めたレシピにそって、作って食べるんですよ。」
と、海上幕僚長は、フォローするように言った。
「美味しいのは、美味しいんですが。そうだ、このカレーを作ったのは誰ですか?」
周りがガヤガヤしてきた。海上幕僚長は、使いを出し山島田三等海尉(護衛艦うらら給養員長)を呼び出した。
(俺に何の用事があるってんだ?)山島田は急いで厨房から出てきた。
「私が、私の責任でこのカレーを作りました。」
山島田は少し喧嘩ごしで、安部防衛大臣につっかかった。
「まぁ、そうですか。トマトとチキンでカレーなんてお洒落なシェフだ事。」
「バカにしてるんですか?」
山島田は怒った。それはそうだと皆内心ではそう思っていた。でもここはこらえなければならない場面だった。
「君をバカにしていた訳ではない。むしろ、逆だよ。」
その場にいた全員がキョトンとしていた。
「高級料理じゃないものに、こんなに感動したのは、初めてだよ。たかだか自衛隊の調理員が作るカレーだと聴いて、最初は嫌だったんだ。でも蓋を開けてみれば違った。どんな高級店でも出せない味を出せる、シェフがこんな所にいたなんて。」
安部防衛大臣はひどく感銘を受けていた。




