二階級特進
「今日のカレーは、誰が作ったのか?横村三尉のポークカレーでは無かったが…。」
長山一佐は横村三尉の側にいた二人の姿を見て、うなずいた。
「君の仕業だったのか。山島田一等海曹。」
長山一佐は、納得した。
「山島田一等海曹のカレーは、えらく評判が良くてね。こういう狭い世界にいると、情報が回るのも早くてね。楽しみは三度の飯くらいでね。良い給養員がいると、気分も良くてね。あ、そうそう、山島田一等海曹は三等海尉に。若杉三等海曹は、一等海曹に昇任するように、人事(海幕)の方に掛け合っておいたから、そのうち通達が来ると思うよ。」
二人はさりげなく聴いていたが、事の重大さを分かっていなかった。
戦功を上げたわけでも、殉職したわけでもないのに、二階級特進は、通常なら有り得ない。それも全ては、山島田を給養員長にし、若杉一等海曹に右腕として、活躍してもらいたいという期待の表れであった。
後に海幕から昇任通知が来たときは、鳥肌もんだった。横村三尉は、結局給養員長の座を山島田に明け渡し、全く関係ないヘリ整備長に左遷された。海上自衛隊随一のエースコックを敵に回した横村三尉の分が悪かった。
着任早々、ゴタゴタはあったものの、すぐに落ち着いた。カレーだけではなく、日々の飯も旨くなったと評判だった。
山島田は、長山一佐に言われた事を、毎日の様に頭の中で反芻していた。
「うららを給養員を養成する艦にしたいとのお達しがあったんだ。横村三尉には、悪いが山島田三尉が、その変わりとなる。一人では心もとないんじゃないかと思って、うみゆき時代からの相棒を、昇格させておいたよ。山島田三尉の料理の腕は、プロのコックにもひけをとらないからね。」
そうか、海上自衛隊も必要なのは、戦闘員だけじゃないんだ。銃を打つばかりが、自衛隊じゃない。そんなことは分かっている。山島田は心の中で葛藤していた。
「平和が、続くからと安心していたが。」
と、言った自衛官としての安保論から、これからどうしたら良いのか。と言ったプライベートな所まで、ひたすら考え事が、多くなっていた。若杉一等海曹は、そんな悩めるうらら新給養員長の山島田三尉を支えるべく、日々の任務に当たっていた。
その頃、寺倉美奈子海士長が、三等海曹への昇任試験に合格し、三曹に昇任していた。金曜日のトマトチキンカレーが、うららで定着し始めた事で、寺倉美奈子三等海曹も、山島田が給養員長に昇格した事を知る。彼女は、対空ミサイルSM-3の運用で、毎日神経をすり減らしていた。
日本にとってSM-3は、弾道ミサイル防衛で二段構えの一翼を担う位、重要視されている迎撃ミサイルであった。
実質ヘリ空母であるうららに、イージス艦と同程度の迎撃能力を付与させる事は、難しかったが、それでも防衛省はうららにもある程度の、ミサイル防衛能力を付与させたかった。




