ヘリ空母型護衛艦うららの金曜カレー
9月のまだ、残暑が厳しい中で、山島田の難敵との闘いは始まった。
勝負は最初の金曜日で決めてやる。そんな意気込みで、山島田は給養員長である、横村三等海尉に尋ねた。
「金曜カレーを私に担当させて貰えないでしょうか?」
やけに丁寧な口調で、自分でも鳥肌がたつ位であった。横村三等海尉は渋々okを出した。まさか、カレー一食で自分の運命が変わる事になろうとは、横村三等海尉も、山島田も思っていない。
「ありがとうございます。」
それだけ伝えると、若杉三等海曹と二人でガッツポーズをした。
「マサさん、例のやつっすね。」
「ああ、俺のトマトチキンカレーで、うららの乗員はびっくり仰天だな。」
運命の金曜日は、異様な雰囲気だった。いくら山島田が、海上自衛隊で名を馳せた給養員とは言え、給養員長を差し置いて料理の指揮を取ることなど前代未聞であった。
しかも、カレーと言えば他の毎日の料理とは訳が違う。これまで新鋭艦として、就役以来うららの金曜カレーと言えば、横村三等海尉のうららポークカレーであった。
特別な評価を受けていた訳ではないが、それなりの代物であった。時計の針は11時を回った頃であろうか。もう、全ての準備が整っていた。
うみゆきでの20年を全て見せつけるかのような、若杉三等海曹と山島田であった。
ヘリ空母型護衛艦うららの食堂に、腹をすかせて並ぶ海自隊員達が、よそられる海自伝統の金曜昼カレーに目を丸くしたのは、自分の番が来た時であった。
ハヤシライスにも似た赤黒い濃厚なカレーが盛られると、ある隊員は呟いた。
「メニュー変わったの?」
ポークカレーが出てくるモノだとてっきり思っていたのだが、トマトチキンカレーが出てきたものだから、メニューを暗記していた隊員にはショックだったかもしれない。
しかし、味の評価は下士官にも、士官にも大好評だった。片付けが終わると、横村三尉に若杉三曹と共に呼ばれた。
「満足か?」
かなり威圧的だったが、それもそのはず。自分よりも早く手際の良さと、カレーの旨さ。これが両立していたのだから、横村三尉も悔しさを隠せない。
「質問の意味がよく分かりません。」
山島田は冷静だった。
「私はただカレーを作っただけです。任務ですから、給養員の。」
横村三尉が話を続けた。
「私が言いたいのはだなぁ…。」
長い説教が始まろうかという所で、給養員室に来客があった。
トントン、「はい。」
「艦長の長山だ。」
「どうぞ。」
三人にとっては、驚きの人物の来訪であった。何よりもびっくり驚いたのは、給養員長の横村三尉であった。




