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侵虫  作者: みるくるみ
1/1

世界の幕開け

「うあぁぁっ.......あああ!!」

右手に激痛を感じる。身体中にしびれを感じる。その中、右手に入り込もうとする物を激痛に体をくねらせながらどうにかしようとする。しかし、実際は虫に体をおおわれ、体に力が入らず虫達のされるがままだった。暗闇の中、なにかが完全に自分の中に入り込むと共に、俺は気絶した。


「うぅ.......」

気絶から目覚めた時にはもう、虫の群れは去っていた。俺はうめきつつ立ち上がり、三階の教室の窓から外をのぞいた時──言葉を失った。





二時間前。

日課である朝の庭の草抜きを終えた後、俺──中桐航太なかぎりこうた──は学校に行く準備を進めていた。

準備を終え、ただ1人の家族である一つ下の妹に挨拶をし、仏壇にいる両親にも挨拶をして家を出る。


同じ会社で働いていた俺の両親は出勤中に交通事故で

亡くなった。なんでも、ダンプカーと正面衝突したら

しい。


俺達は、警察から両親が亡くなったということを警察から聞いた時は呆然ぼうぜんとしてその場にひざからくずれ落ちた。

彼らが帰った後、いつまでも両親が帰ってこなか

ったことでようやく両親は亡くなったのだと、もう帰

ってこないのだと理解し、一晩中泣き続けた。


その後、特に親しかった親戚の家で妹と共に暮らすことを勧められたが、2世帯で暮らしている親戚にそのような余裕があるようには見えなかった。

だから、俺達は両親の残した家に2人で住むことになった。


親戚は優しく、その時まだ中学生だった俺達を思いやって家賃を払ってくれた。結局は負担を増やしてしまったことは申し訳なかったが、素直に感謝している。


高校二年生となった今、俺は学校帰りにバイトをして家賃などの生活費を稼いでいる。

本当は両親の生命保険で得たお金があるが、両親の死によって得たお金は使いたくない、使えないと俺達は揃って思ったので、使っていない。昔は家の金庫に入れていたが、不用心だと言われ、今では銀行に預けてある。


妹──藍花あいかは可愛い俺の妹だ。両親が亡くなる前は仲良し兄妹と言われる程仲が良かったのだが、亡くなった後は、そのショックからか引きこもりがちになってしまって、口を聞く回数も減ってしまった。

なんとか今年、現役で高校には入ったが、入学式に行ったきりでまた引きこもってしまっている。


俺はなんとか藍花を部屋から出そう思ったのだが、入学式の後玄関で「お母さん.......お父さん.......」と泣きながらつぶやき続ける様子を見て、何も言えなくなってしまった。

両親が亡くなった頃、藍花は中学一年生でまだ幼心おさなごころが残っていたのでショックがとても大きかったようだ。


ただ、妹は部屋の中でもできる内職で自分なりにお金を稼いでくれているようだった。時折ときおり、部屋の前に郵送先ゆうそうさきが書かれた荷物が置かれている。


そんな環境で過ごし、バイトで放課後に人と関わろうとしなければ必ずと言っていいほど学校で絡んでくる奴らは現れる。

今日もいつも通り教室に入るや否や、男子グループ5人が舐め腐ったような表情と口調で絡んでくる。

ただ、俺はそれを無視して自分の席に座る。こういう奴らは関わるだけ無駄だ。


でも、それでも奴らは絡もうとしてくる。いつもの事だがいい加減ウザいとおもっていたその時、教室のドアを開けて入ってきた人物を見て舌打ちをして俺から離れていく。

俺の数少ない友達──村山大地と小山美穂だ。この2人家が近所の幼馴染おさななじみで小さい頃からよく一緒に遊んでいた。俺達が両親を亡くした時も毎日俺達を心配して来てくれていた、優しい友達だ。おまけに美男美女でクラスからの信頼は厚い。何しろ欠点がなく、俺みたいな暗いヤツと関わっていることが唯一の欠点と言われているぐらいだ。


2人は俺の近くにいた5人をチラッと見た後、俺の方に近づいてきた。

「航太、また絡まれてたのか。」

「ビシッと言ってやりゃいいのに。」

心配と呆れを含んだ2人の言葉に俺はため息を吐いた。

「ああいうのは絡むだけ無駄なんだよ。何かリアクションをとればエスカレートするだけ。無視が一番なんだよ。」

俺の諦めの意を感じたのかそれ以上は何も言わず、2人は自分の席に座った。


HR開始まであと10分。携帯ゲームをして時間を潰していると、先生が教室に入ってきた。その後、時間を確認すると残り2分だった。

それを見て携帯をポケットに入れ、教室の時計が進んでいく様子をぼうっと眺めた。


残り1分...30秒...10秒...5、4、3、2、1──

パリィィィン!!!!

外に面している教室の全ての窓が勢いよく割れ、破片が飛び散った。窓側に座っていた人達は破片が身体中に刺さり血だらけだ。

一気に教室は阿鼻叫喚というに相応しい様に変化した。ドアを開け逃げようとするもドアが開かない。泣き叫び、ドアを叩いたり、体をぶつけたりしてなんとかこじ開けようとするがビクともしない。


俺はどうしていいか分からずただ呆然として席に座っていた。

──なんなんだ、これは!何が起こっているんだ!窓側の人達は、死んでしまったのか?一体なんなんだよ、これは.......


「.......い!おい!航太!何ぼうっとしてんだ!」

焦る大地の声でハッとする。近くには美穂もいた。

「すまん、大地。だがこれを見て何をしろと言うんだ!人に窓ガラスが刺さって血だらけになってるし、ドアもあかなそうだし.......」

俺は窓側の血だらけの人と開かないドアを指さした。

「...そうだけど、落ち着かないと冷静な判断も出来ないだろ?」

「.......そう、か。そうだな。ふぅ、少し落ち着いたよ」

「落ち着いてくれたなら、よかったよ。僕も、少し安心した」

そこで初めて大地の声が震えていたことに気づいた。よく見ると美穂も小さく震えている。なにも落ち着いた訳ではなくただ気丈きじょう振舞ふるまっていただけだった。

──俺もしっかりしないと。

二人を見てそう思った。


そう思った直後、割れた窓からうごめく黒いかたまりが教室に侵入してきた。よく見ると数え切れないほどの黒い虫の集合体で教室に入った瞬間、散り散りになり教室にいた人全員に襲いかかったのだ。


パニックはさらに加速し、襲ってくる虫から逃げたり潰そうとしたりするものの、虫はものともしない様子でおそってくる。

もちろん、俺達3人の所にも虫が襲っていかかってくる。

「嫌だ、嫌だ、来ないで!!!」

「くそっ!来るな!このっ!」

美穂の恐怖の叫びと俺達の抵抗虚しく、3人とも虫の群れに飲み込まれてしまった。


──暗い、真っ暗だ。身体中を虫が這ってて気持ち悪い、吐きそうだ。怖い、怖い、なんなんだ、一体...

「うあぁぁっ.......あああ!!」

恐怖と気持ち悪さを感じていると右手に激痛が走る。

虫のせいで身体中が痺れ、力が入らない。

痛みはまだ続いている。抉られるような、噛みちぎられるような、痛み。

徐々に呼吸が難しくなっていく。どんどんと意識が朦朧もうろうとしていく。

遠ざかる意識の中、何かが俺の中へと入っていくような感覚と痛みを感じつつ、俺の意識は途絶えた。





「うぅ.......」

目が覚めた時には、もう虫の群れは去っていた。呻きつつ立ち上がると、右手がズキンと痛んだ。見ると、青アザがいくつも出来ている。そこで俺は最後に感じた感覚を思い出す。

──もしかして、あの虫が俺の中に入っているのだろうか。

その瞬間、吐き気をもよおしたが、無理矢理押さえ込み、なんとか吐かずに済んだ。

落ち着いてから周りを見渡すと、皆が倒れている。目をひん剥いている人や半眼でだらしなく口を開けて脱力している人など、ほとんどがそのような様子だった。

それらを見て、俺は大地と美穂のことを思い出し、慌てて二人を探した。

「大地!美穂!」

近くに倒れている二人を見つけ、焦りと恐怖を含んだ大声で呼びかける。

もし二人が死んでしまっていたら.......そう考えると涙が溢れて止まらなかった。

「だいちぃ.......みほぉ.......返事を、してくれぇ.......」

泣き声で二人の肩を強く揺さぶっていると、二人が反応を示した。

「うぅ、ん.......航、太?」

「くっ、うぅ.......何泣いてんのよ...」

「大地...美穂...生きてて、よかった.......!」

二人が生きていることが分かると、安堵の涙がさらに溢れてしまった。


「二人とも、体に変なところはないか?」

5分くらい泣いた後、ようやく現状確認に進んだ。俺の確認に二人は体を動かしてみせた。

「ああ、体は元気そのものだ。青アザを除けばな」

「私も」

二人にも俺と同じような青アザがいくつもあった。ただ場所はバラバラで大地は首筋、美穂は左の脇腹《脇腹》だった。

「この青アザがある所、ここだけ抉られるような激痛を感じて、苦しくて、思い出すだけでも痛くなってくるよ」

美穂が脇腹を抑えながら顔をゆがめた。

「まったくだ。あの時の痛み、一生忘れないくらいだ」

苦々しく大地も微笑む。

「俺もだよ。苦しくてたまらなかった。....さて、とりあえず生存確認をしようか。あまりしたくない、けど」

遠慮がちに、呟くように言うと二人は何も言わず頷き、それぞれ確認し始めた。


「.......どうだった?」

「.......」

「.......」

俺の問いに二人は黙って首を横に振った。それを見て、誰も生きている人はいなかったと悟る。

「.......とりあえず教室から出れる方法を探そうか」

「....そうだね」

そう言い、大地が扉に手をかけると簡単に開いた。

これに3人は驚いて立ち尽くした。

──あのパニックの中、何をしても開かなかったのになぜ今は開くんだ?

疑問をかかえ廊下に出ようとすると、美穂が遠慮がちに声をかけてきた。

「ねぇ、二人とも外は見た?」

それに俺と大地は首を横に振る。

外を気にしている余裕はなかった。自分のことで精一杯だった。だが、『外』と言われて忘れてはいけない大切なことを、唯一の家族のことを思い出した。

俺は割れた窓に向かって走り、外を覗いた。

その時──俺は言葉を失った。

街中で倒れている人々、煙がのぼる家、そこらにある血の跡。

あの虫達にやられたであろう荒れ果てた世界がそこに広がっていた。

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