二話。チュートリアルするけどクリアできないって話②
『…………クリア不能なループに陥ったため、初期位置に戻します。スライムの設定を変更。移動不能、攻撃不能状態を付与。それでは……どうぞ』
なんだか段々天の声(仮名)さんが呆れてきています。これはいけません。ゲーマーの端くれとして、なんとか名誉挽回せねば!
しかしここまでおぜん立てして貰って動かない敵をタコ殴りにするのはちょっと違う気がします。趣向を変えて遠距離武器を使ってみましょう。
装備するのは弓。近づかなければダメージを負う事もマウントをとられることも無いのですよ! それに、弓道部の勧誘では、当てるだけなら初心者にもできるから大丈夫と言っていたので大丈夫です!
……でも、その後の体験コーナーに行ったら全力で断られてしまったのはなぜでしょう?
気を取り直して再挑戦です。ええと、まずは弓に矢をつがえて……
・弓の暴発! ヒナにダメージ!
い、痛いです……。そういえば体験コーナーでもこうやってつがえれなくて怪我をしたような……ええい、できるまで挑戦です!
・弓の暴発! ヒナにダメージ! 弓の暴発! ヒナにダメージ!
・弓の暴発! ヒナにダメージ! 弓の暴発! ヒナにダメージ!
・弓の誤射! 放たれた矢はヒナへと当たってしまった!
『………やはりふざけて「いたって真面目にやっています!」……では、魔法使いをお勧めします』
魔法使いと? でも、難しいんでしょう? ホラ、MP管理とかが必要で上級者向けとよく聞きます。
『SSOにおける魔法使いは、運動が苦手なプレイヤーの救済措置的な面もあります。攻の命中コントロールに脳波補正が掛る為、戦闘難易度は低いです』
成程! それなら安心ですね!
弓を元合った場所に戻し、代わりに杖を持ち出します。最初にできる魔法は……マナバレット? あ、消費MPを増やせば更に威力が上がるらしいですね! それならば確実に当たる様に全MPを込めて詠唱! 発射!
・ルナの魔法の一撃! スライムには当たらなかった!
・ルナはMPロスト! ペナルティによりスタン状態に陥った!
『…………………戦闘職は諦めませんか?』
戦闘職で華々しく戦う夢は潰えたようです。
気を取り直して生産職です!
まずは農家を試してみましょう! ほのぼの生活と言えば、これでしょうからね。あわよくば、薬草や戦闘に使える薬品になる植物を作って生産チートでちやほやされたいです。
景気よく行きましょう! まずは雑草抜きからです。基本ですね! とった雑草はちゃんと捨てて……え? 薬草? 収穫をやらせるつもりだった?
………な、なら耕作です! 知ってますよ! クワを振り下ろすのは二流だと! それは打ちグワと呼ばれるそれ用のクワで、 実際に使う普通のクワは、どちらかと言うと整地や畝づくりに用いられることを!
フフフ。ちゃんと打ちグワもあるじゃないですか。それでは大きく振りかぶって! あ、そーれ!
・ルナの足にクワは直撃してしまった!
部位欠損ペナルティが発生します。
『………生産活動中の生産職が部位欠損ペナルティを受けたのは、これが初めての事例です』
「こ、光栄ですね……」
足、滅茶苦茶痛いです。
気を取り直して次は錬金です。初めからこれに手を出していれば良かったのです。なにせこれは薬を作るだけの、所謂作業ゲー! ここに運動能力なんて無粋なものは存在しないのですから!
『錬金や製薬はマニュアル作成に近ければ近いほど品質が高まりますが、貴女の場合はオート作成を用いることを強く勧めます。更に、【錬金成功率上昇】スキルと【安全調合】スキルを付与します。………これだけでは心配なので調合の書を配布します』
どうしましょう。AIである天の声さんにまで心配されています。でも、流石にそこまでしなくても、セミオートくらいなら……え?ダメ? 分かりましたよーだ。
天の声さん曰く、リアリティを追求したゲームのシステム上100%で錬金が成功することはまずないとのことですが、今貰ったスキルと本があれば初級ポーション程度なら100回作って100回は成功するとのことです。
オートの場合は調合画面を開いて、作りたいアイテムとその素材を選択。そして実行ボタンを押すだけというなんとも簡単仕様です。
これなら私にだって錬金術師になる道があります!
・調合結果:失敗
燃えないゴミ。
【燃えないゴミ】
調合スキルによる失敗作の中の失敗作。一段階下の劣等ポーションにすらならなかったある意味稀有な例。
あの、天の声さん……?
『100回やって100回成功する確率の筈なのに、101回目で失敗する確率まで引き出すとは、恐れ入りました。……グスッ』
それ褒めてないですよね? なんか同情されてません? いつもゲームする時はこの程度の失敗重ねるのは当たり前なんですが……これくらい、普通ですよね?
私、何かやっちゃいましたか? (きょとん)
『その言葉の使い方を、昨今の使い方と異なる使い方で使ったのは私は貴女が初めてです。むしろ、ここまでゲームシステムに嫌われている人間を、私は始めてみました。いっそ哀れに思えてきます』
同情じゃありませんでした。ものっそい哀れみでした。
『私の裁量では判断のつかない事象が発生しました。一度上の者に判断を仰ぎますので、しばらくお待ちください』
そういって天の声さんの声はしなくなった。どうしましょう。思っていた以上に大事になってきました。段々心配が越えて申し訳なさになってきました。
あまりにも申し訳ないので自主トレでもして待ちましょう。素振りでもすればもしかしたら多少はマシになるかもしれません。
『お待たせしました。ゲームマスターの裁定をお伝えします。……それは何かのお遊戯ですか?』
「見ての通り、素振りをして自主トレです!」
『……素振、り………? お待たせしました。ゲームマスターからの裁定をお伝えします』
天の声さん? 今、何かをなかったことにしませんでしたか?
『結論から申し上げます。貴女を特例として、【特別観察対象プレイヤー】に設定したします。ゲームマスターは貴女を稀有な例として認定し、常にGMによって行動を記録する代わりにゲームと滞りなく楽しめる様に支援することが決まりました。差し当たり、ゲームスタ―ト前から各種スキルを贈呈します』
「つまり、最初から俺ツエーを公認して貰えるという事ですか? そんな! 流石にズルはいけません! それに、常時観察されるってプライバシーがなくないですか!?」
『シミュレーションの結果、貴女の場合はこの措置を行い、観特別観察対象の名目で安全確認を24時間行ったとしてもスライムに殺される可能性が50%以上あります。ですので全く問題ありません。いい加減目覚めなさい。貴女はそこまでされる程の事をこの場でやってのけたのです。イメージできますか? ここまでして過保護にしてなおスライムに殺される貴方の姿を。私は余裕でシミュレート出来ました』
私も同じ事を想像出来ました。スイマセンデシタ……
『それでは、貴女のアバターに支援スキルを付与します。ステータスを確認してください』
【ヒナ】Lv.1
種族:ヒューマン
ジョブ:空白
HP 10/10
MP 10/10
STR 5
DEF 5
IMT 5
AGI 5
DEX 5
スキル
【魔物の奏者】
エクストラスキル。モンスターのテイム確率が極めて大きく上昇し、テイムモンスターの成長が早くなる。最初の一匹目のみ確定でテイムが成功する(早く守って貰える存在を見つけてくださいw。by運営)
【マジックボウ】
エクストラスキル。弓を使わずとも矢を放つことができるスキル。矢の当たる場所はターゲットマーカーによって可視化される。一度に放てる弓の数はレベル依存。(これで自分でも攻撃できますw 良かったですねw by運営)
【矢生産EX】
エクストラスキル。矢限定で生産成功率100%。(まさかあれだけお膳立てされながら生産に失敗するとは思いませんでした。byナビィ)
【隠蔽EX】
エクストラスキル。自身の情報は全て一切鑑定されない(流石にこれだけの依怙贔屓を見られる訳にはいきませんby運営)
【不意打ち保護】
プレイヤーの予期せぬ攻撃行動を自動で防御する。(正直これでも不十分だと思いますが……byナビィ)
【緊急離脱】
フィールド・ダンジョン問わず、その場から最寄りの都市または始まりの町までテレポートする。(流石にこれで逃げるくらいは貴女にも出来ると思います。byナビィ)
【自傷防御】
自身の意図せぬ自分へのダメージを防ぐ(クワで自害w 流石に可哀そうなのでw by運営)
【お問い合わせフォーム】
何か困ったことがあったら運営・ナビィまでお問い合わせください(たぶん一番の優遇措置ですw by運営)
称号
【特別観察対象】
ログイン中永続的に行動を記録されることと引き換えに運営による恩恵が得られる。(運営による恩恵スキルには運営からのコメントが添付されています)
【特別保護動物】
町から出たら5分で死んじゃうような可哀そうな生き物に与えられる称号。NPC・モンスター問わず、攻撃されにくくなる。
【ナビィの同情】
冷徹無血な管理AI であるナビィにすら同情された者の称号。NPC・モンスター問わず、やたらと同情されるようになる。(話を聞いた時腹を抱える程笑えたのでサービスしときます。byゲームマスター)
なんだかそこはかとなく馬鹿にされているような気がします。運営さんに至っては草生えてるし……
でも、思った以上に優遇措置が多すぎると思うんですけど本当にいいんですか? もうこれ、公式公認のチートですよね?
『なんども言いますが、これだけやっても貴女は死ねます。チュートリアルで既にそれは確信しています』
あ、はい。ありがたく頂いておきます。
チュートリアルも終了したことですし、私の冒険はここからです!
余談
『ゲームマスター。チュートリアルにて問題が発生しました』
「は? 何が起きたの? 主人公君がチュートリアルでチートスキル手に入れちゃった? それともチュートリアルでも無双しちゃった? 無双して勘違いしちゃった?」
『いえ、逆です。本人は頑張っていますが、チュートリアルがクリアできません。戦闘職、生産職等色々試させましたが、全て未クリアです。』
「何それ!? あのクソ雑魚ブロッコリーでもクリアできる超絶簡単なチュートリアルをクリアできない? 保育園児でも肩慣らしに物足りないレベルだよ? チート? それとも未知のバグ? 」
『いえ、純粋にプレイヤーのスキルの様です。正直可哀そうすぎてみていられません』
「なにそれ面白……コホン。可哀そう……その子にチートスキル配っってあげて? ついでにこっちで常時モニターしとくから、何かあったら割って入ってあげて?」
こんな話があったとかなかったとか