棚ぼたの縁3
「順を追って説明すると、さっき体育館裏で上級生が俺に対して魔術を使って威圧してきた時に、上級生を振り払おうとして俺が魔力を放出したのを南雲に知られたんだ。」
徹君が早口で御守さんに弁明を始めた。御守さんは徹君をじっと見つめている。
「もちろん、上級生の他に周りに人が居ないのを確認してた。でも、南雲は体育館の中にいたのには気づかなかったんだ。魔力を放出した時に、体育館から悲鳴が聞こえて、俺はそれを確認しにいったんだ。そこに南雲がいて、問いただしたら、熱風を感じたって言われた。」
徹君が弁明を終えても、御守さんは彼をまじまじと見つめていた。
「それだけ?」
「あと、魔術について話してるのを聞かれた。」
「何でそんな話をしたの!?」
御守さんの問いに対して、徹君が即答した。彼の答えを聞いた御守さんは全身を使って彼に抗議の意を示した。
「魔術の話を始めたのは俺じゃない。上級生が俺が魔術を使ってるっていいがかりを」
「使ってなかったの?」
「魔術を用いない魔法の練習をしてたんだよ。」
「素直に謝っとけばいいじゃない」
「素直に否定したんだよ。嘘はついてなし、規定には違反してない。」
徹君と御守さんのやりとりに僕はついていけず、呆然と見つめていた。
「南雲君に対しては誤魔化せばよかったでしょ?」
「何て?」
「季節外れの風だったね。春一番かな?とか。」
「冬至もまだなのに?」
「そういうとこ!素直じゃない!」
御守さんが両手ではさみを作り、徹君の頬を引っ張り出した。この光景を誰かに見られていたら、徹君は嫉妬で学校中の男子から妬っかまれていただろう。
「いあい。いあい!」
徹君の発音から子音が消えた。うらやましい。そう思いながら、僕は御守さんを見つめていた。不意に彼女が僕を振り返った。彼女の視線に心臓を掴まれたような感じがして、僕は固まってしまった。僕も彼女に責め立てられてしまうのだろうかという恐れと期待の入り混じった気持ちに僕はさいなまれた。
「魔の因子よ汝を知らぬ者を 遠ざけよ」
御守さんが何かを呟くと、僕の周りを紫と黄色の閃光を内包した泡の様なものが回り始めた。僕はその泡に当たらないように避けながら、その異質な存在から遠ざかる様に後ずさりした。
「目で追えるんだ。何か見える?」
御守さんが僕に問いかけ、僕は彼女の方を振り返った。
「紫と黄色の閃光を内包した泡。」
「そっか。ご苦労様。」
僕が返事をした後に発した彼女の言葉によって、僕を追いかけていた泡が弾けた。
「ありがとう。」
僕は御守さんにお礼を言った。