二面性
「シーナは何にやられたの?あと、パンジーがいないけど?」
「黒猫なら蛇の頭に喰われたわい。ワシは禁忌を侵して呪いを受けておる。」
徹君の問いにシーナが弱々しく答えた。
「癒せ!」
「おお。痛みが消えたわい。呪いというのはの、お主も言い伝えを聞いた事があるであろう因幡の」
「ごめん。知らん。後で聞く。怪我人は寝てなよ。」
徹君は容赦のない早口で答えた。
「さ、最後まで言わ」
「闇に呑まれなかったんだね。」
「周りに張られてる結界の副作用だね。これだけ天の白い光に囲まれてると、闇な呑まれたくても呑まれんよ。」
「だからって羽織脱がなくてもいいじゃん。」
「俺が闇に飲まれるリスクは低めだし、それよりも南雲が天の光に中てられるリスクの方が高いかなって思って。」
「もう少し冷静になりなよ。焦って安易な判断しちゃ駄目だよ!?」
「冷静に判断したさ。確かに、熟考せずに行動する癖があるのは意識してるけれど、俺が焦っているんじゃなくて御守が優柔不断なんだよ。」
「ガブリ!」顔が溶けて骨が剥き出しになっている白大蛇が徹君に噛みついて、夫婦漫才に水を差した。ドロリ。白大蛇の顔が溶け出して、中から黒く細長い物が躍り出てきた。徹君の黒剣だった。
「次、蛇の首か。パンジー食べたんだっけ?御守、手伝って欲しい。」
「いいの?パンジーちゃんを心配してくれるのは嬉しいけど、カンニング扱いになるよ?」
「しょーがないでしょ。」
「それならあっちに行ったよ?」
「白大蛇の討伐は俺がやるから、御守はパンジーの救出を頼むよ。南雲はシーナを抱えて走って!御守の傍から離れるな!じゃ、先行するから!」
徹君は言い終わるのと同時に走り出した。確かに、徹君は行動に移すのが早いと僕は思った。
「人の話聞いて無かったの?」
御守さんがシーナを僕に手渡して走り出した。僕も彼女を追って走り出した。手負いのウサギを抱えて走るのは気を遣う。僕と御守さんの距離は次第に離れていった。
「南雲。痛いわ。ゆっくりと走れ。」
シーナの一言で御守さんの背中が遠くなる速さが上がった。御守さんは僕達が遅れてるのに気づいて無かった。次第に僕等の距離が100m以上離れた頃、もっと先にいた徹君が頭だけ大きい白蛇に追いついているのが見えた。白蛇の首が下に落ち、徹君が屈みこんでうずくまっった。傍に小さく白い人影が倒れていた。
「徹君!」
御守さんが叫んだ正にその時、白く長い物がうねりながら伸びた。伸びた白い物は反動で下に向かって振り下ろされた。徹君はそれを躊躇なく切り裂いた。黒と白のしぶきが辺りに飛び散った。白く長い物は地面へ落ちて弾けこちら側へ転がって来た。それの先端には丸い何かがついていた。髪の白い幼い子どもの首だった。僕はそれを見て腰を抜かしてしまった。足を滑らせ、膝の力を入れていけない方向へ体重が乗るのを感じた。倒れながらも身を挺してシーナを庇った。
「うっ。」
痛みに悶えながら後ろを振り返り、見間違えでは無かった事を確認した。首は長いが、紛れもない人の首だった。幼子の口には白い包丁が咥えられていた。幼子は不意に包丁を落として笑い始めた。
「フフ。フフフフ。同族の形をしたものを良くいとも簡単に落とせるとはな。小僧、お前はこちら側に来るべきだ。その心の在り方、人であり続ける事は叶わんぞ。」
「胴を失い、息を吐くすべを失ったはずの生首が話すわけないだろう。お前は人間では無い。妖怪、良いとこで、祟り神だろ。パンジーに手を掛けたお前に掛ける情は無い。」
後ろを振り返ると冷たい目をした徹君がいた。彼は顔に白い返り血を浴びていた。人の形をした生首を切り落としてもなお、彼は不気味な程真っすぐ対象を見据えて視線を離さなかった。




