実践あるのみ
御守さんが張った結界の方を見ると、即座に復旧していた。
「さんきゅ!御守!お陰で、怪我せずに済んだわ!」
「もう!結界に突っ込む前に踏ん張ってよ!」
「や、ごめん。でも、丁度いいと思ってさ!」
「何が?」
徹君は御守さんと叫びあっていたが、不意に僕の方を見ると、自分が来ていた羽織を差し出した。近くで見ると、羽織の巴紋は椿の花を模した凝ったデザインでとても恰好良かった。
「着ててよ。着脱式可搬型の結界なんだ。」
僕はその羽織を受け取って呆然としていた。
「徹君!?」
「御守!前!」
白大蛇が結界にかぶりついた。白い蛇毒が結界の表面に広がっていった。白大蛇の体には無数の切り傷が着いていたが、どれも浅そうで致命的なものは無かった。
「癒せ!」
徹君が叫ぶと、蛇毒が蒸発していった。「ドボン!」徹君が結界の外へ飛び出して蛇に切りかかり、白大蛇がそれを交わした。
「やはり、徹の治癒魔法はすごいのう。解毒まで出来るようになるとは。南雲、羽織を羽織っておけ。」
「はい!」
「御家瀬の巴紋羽織は中庸の結界。あらゆる毒や呪い、負の感情等を中和して低減させるんじゃ。」
羽織を着ると、僅かに感じていた寒さが収まった。その時、僕の前に紅椿が落ちてきた。御守さんが僕にまじないをかけた時に使ったものだった。どうやら、ここに来るまでずっと僕の頭上で咲いていたらしかった。頭上に花を浮かせて歩いてきたかと思うと、僕は少し恥ずかしくなった。
「黒剣が暴走しないように着てて欲しかったのに。」
「羽織で黒剣の力の力も大分抑えられとったからのう。戦いづらかったんじゃろうて。すぐにでもけりをつける気じゃな。しかし、徹の奴、そう長くは保たぬぞ。見よ!既に、剣の形が崩れておるではないか。」
シーナの言う通り、徹君の剣はグニャグニャに曲がり始め、次第に徹君の体の至る所からグニャグニャした黒いものが生えてきた。これでは本当に徹君の方が白大蛇よりもヤマタノオロチの様だ。そんな徹を見つめている御守さんは手を胸に当てて心配そうにしていた。
「智恵!後ろ!」
パンジーの声で振り返ると後方から無数の白い蛇達が結界に侵入しようと試みていた。御守さんの結界は蛇達をゼリーの用な弾力で弾き、侵入を拒んでいた。
「丁度よいではないか。南雲!実践演習じゃ。大蛇の眷属を倒したところで、カンニングには数えまいよ。先ほど教わった魔術を唱えてみよ。」
「シーナ!まだ、南雲君に御守家の魔術を使う許可を出す儀式が終わってないよ!?」
「なに、問題は無い。そなたの式であり、五縁を結びし白兎大兎が」
「要点だけにして!シーナがパス通してくれるのね!わかったから早く!」
「たわけ!最後まで言わせぬか!もうよい!南雲!さっさと魔術を唱えろ!」
「は、はい!答えよ先人の遺志、雷撃充填。」
僕が呪文を唱えると、マリモの前に黄色い魔法陣が出現し、「ババババ」という破裂音を伴って紫色の閃光がマリモから魔法陣へと吸い込まれていった。
「ディ、放電」
「「「「うわっ!!」」」」
魔法陣から一度に紫色のスパークが放射状に放たれた。その場にいた僕を含める全員が悲鳴を上げた。
「馬鹿者が!!!何をやっておる!的を絞らんか!!殺す気か!!?」
「痛い!痛い!」
シーナが僕から枝を取り上げ、それで僕をボカスカ殴った。
「ごめんなさい。皆さん、怪我無かったですか?」
僕は謝罪し、辺りを見回したが、皆、腰を抜かしていただけだった。予想外な事に、結界の境界にいたの蛇達が泡を吹いて倒れていた。
「まあ、結果おーらいって事でいいんじゃない?」
腰を抜かしたままの御守さんが苦笑いと少し低い声で僕を慰めてくれた。僕の初めての魔術行使は僕にとって失敗に終わった。




