贖罪の契約
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
マリモは弾ける音を出していた。僕はそれをじっくりと眺めていた。
「南雲、これより簡易契約を行う。お前の名づけによってこの者を縛る。この雷公の赤子に名を付けよ。」
「マリモ」
僕の返答を聞いたシーナがよろけてケンケン足になった。
「即答か。ひねりが無く、まんまじゃのう。まあ、良いわ。南雲、この者は神木を焼いた罪に拘束される事になっておる。詠唱を急急如律令で始め、心を込めてマリモに語り掛け縛れ。主従関係と贖罪をさせる事を忘れるな。ワシが其方の詠唱に重ねて詠唱を行い、縛りを強化する。ゆっくり唱えてよい。焦らず確実にやるんじゃ。」。
「分った。」
「「急急如律令。汝知罪者。君子非無過。須常思其過。我使汝償其過、我使汝業罰示式神。よろしくね、マリモ!」
詠唱を終えて、僕がマリモに手を差し出した時、僕とマリモの間に青い電撃が走った。途端に、僕の頭が真暗くなり、遠くから落雷音がするようになった。マリモが僕の前を走っていた。僕もマリモに続いた。落雷音はどんどん後ろから近づいてきた。ついに、落雷音は僕等を追い越していった。後ろからも前からも鼓膜を破る程の爆音と立っていられない程の衝撃が僕等を襲っていた。遂に、僕らは立ちすくんでしまった。もう逃げられない。そう思った時、僕等に雷撃が落ちた。躰が焼ける様な感覚と共に、僕等は落下を始めた。ドドンという音と共に僕等はどこかに落ちた。辺りが炎に包まれていた。目の前には焼け焦げていく木と片腕が捥げ、大焼けどをしている女性が横たわっていた。僕は彼女を見て、呆然と立ちすくんでいた。
「南雲、おい、起きろ木偶。」
僕はシーナの声で目を覚ました。起き上がると、ウサギと猫と変な色のマリモが僕を覗き込んでいた。
「上出来じゃ、其方の優しさと歩み寄ろうとする心、ワシまで伝わって来たぞ。其方、動物に好かれるじゃろう?この木の枝は其方が持っておけ。」
僕は起き上がって差し出された枝を受け取り、頭を抑え込んだ。頭がガンガンした。
「ありがとうございます。変な夢を見ました。辺り一面の炎と燃える木、大やけどをした女の人。」
「それがマリモの罪状じゃ。マリモがお前へ力を貸す代わりに、お前はマリモの贖罪の手伝いをするのじゃ。」
シーナの言葉を聞いて僕はマリモの方を見つめて手を伸ばした。
「よろしくね」
マリモは僕の手に乗ったが、今度は電撃が走ることは無かった。御守さんの方を伺うと、徹君の方をずっと見つめていた。
「南雲、簡易的な雷属性の魔術を智恵に習っておけ!事が起これば、最低限、自衛してもらう!ワシには雑魚を二匹も庇えるほどの余裕は無い!智恵!」
「わかった!」
御守さんは振り返りもせずに答えた。
「3つ呪文を教えるね。答えよ先人の遺志、雷撃充填、放電縁を結ぶシーナは未来予知ができるの。シーナの警告を聞いておいてね。できれば、結界に封じられる前にも教えて欲しかったけどね。」
「全く、困ったものじゃよ。ワシが読みを間違えるとは。すまんの。しかし、教えられたとしても、試験中はカンニングになるであろう?ワシは信じておるよ。智恵と徹をな。」
「ありがと、御守さん。」
お礼を言っても、御守さんは返事もしてくれなかった。
「南雲、智恵の言うように、五縁を繋ぎし月詠兎であるワシの勘は良く当たるのじゃ。」
「へ、変なフラグ立てないで下さいよ。」
「うるさいのう。まずは、」
ドボン!!大きな水音としぶきと共に徹君が結界を破って僕の前に落ちてきた。




