相棒との出会い
僕は手に汗を握って戦いの行く末を見守っていた。時折、戦いの余波で空を覆う白い結界に黒いヒビが入ったり、御守さんが張っている青い結界に岩やがれきが飛んできた。まるで、特撮ヒーローものの撮影現場にいる様だった。結界は例によってすぐに修復されるし、御守さんの結界は飛んでくる物をゼリーの様な弾力で後ろの方へと受け流していた。
「徹君は剣を作る魔術も使えるんだね。」
「お主、余裕じゃのう。一般人ならこの惨状を見て泣き叫んでも可笑しくは無いのではないか?」
「徹君が使ってる剣は魔術と呼べるような代物じゃ無いよ。確かに、剣の体を成しているけれど、人の躰で耐えられる設計ができてないの。そもそも、土台がしっかりして無いの。発動、持続の効率について熟慮されて無くて、いつ崩れるか分からない。」
シーナと御守さんは会話しながらも戦いの行方から目を離さなかった。
「術式として形を安定させるまで使わせたく無かったのに。」
「智恵、嫌な予感がする。ちと早いが、この木偶にも自己防衛できるだけの魔法を与えておいた方が良い。」
「シーナ?」
「徹が暴走するような事があれば、お主は徹を止めるので精一杯になるであろう。暴走を止められなければ、あの大蛇を退治できたとしても、徹が魔術士達に退治される事になろうぞ。大方、それが目的でのこの神通力を用いた結界じゃろうのう。」
シーナの言葉を聞いて、御守さんはうつむいてしまった。
「そんな事、させないもん。」
声こそ小さかったが、御守さんの声は真っ直ぐで少しの震えも無かった。
「南雲君、少し早くなるけれど、今決めて欲しいの。」
「魔術士を目指すのか、全てを忘れて一般人に戻るのか?」
「そう。もし、一般人に戻るのなら、パンジーと一緒にシーナの空間移動で逃げられるから安心して。」
「ううん。魔術の世界に進むよ。徹君と御守さんとももっと仲良くなりたいし。」
「おい、木偶。ワシは?ワシを忘れておらぬか?」
「俺も仲良くしたいな。南雲!そんな漢方薬臭いジジイより、俺と仲良くしようぜ!智恵の友達なら、特別に俺を撫でる事を許してやる!」
「う、うん。2人?ともよろしくね。」
シーナとパンジーはにらみ合うと、再び取っ組み合いを始めた。相撲を取り始めた2匹を前に僕がオロオロしていると、御守さんが彼等の首根っこを掴んで引き離した。
「そーいうのは、帰ってからにしよ?」
冷ややかな御守さんの笑みに2匹の目が丸くなった。口元こそ笑っていたが、彼女の目は大きく開いたままだった。今更ながらに、僕は彼女は表の世界では猫を被っているのだと理解した。彼女は万人受けする優しさと温かさ、おしとやかさで学校の男子達から評判だったが、むしろ彼女はしたたかなのだ。
「な、南雲。そなたに精霊を授けようと思う。五縁を結びし白兎大兎が血脈を引くワシが授けるのだ。感涙し、ひれ伏し、ワシに貢ぎ物を寄越せ。」
「シーナ!品の無い事言わないで!?」
御守さんがシーナのほっぺたをつねり始めた。
「シーナさん。貢ぎ物は何が良いですか?」
「たわけ!様じゃ!様を付けぬか!最高級のあまおうを1パック寄越せ!」
「シーナ!?そんなに食べたら、糖尿病になるよ!?」
シーナは御守さんを無視し、彼女の腕を振りほどいて僕の方へやってきた。
「そなたに精霊を授ける。」
そう言うと、シーナは空から人の腕ほどの長さで黒こげの枝を取り出した。枝の上には紫と黄色の火花を弾かせる黒いマリモがいた。
「とある神社の御神木に落ちた雷公の赤子じゃ。」
これが、僕の魔術士への第一歩で、僕の相棒との出会いだった。




