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覇王の剣 ~魔術剣士と本の虫~  作者: 如月築志
難関試験【下】
21/31

名を偽る妖と本物の祟り

 「結界を張ったのは外にいる人?」

「そう感じたの?」

「徹君と御守さんの雰囲気でそうなのかと思って。」

「うちには結界を展開する魔法の波動が結界の中心から来たようには感じなかった。」


質問をしても、御守さんは終始俯いたままだった。徹君が不意に目の前で止まった。


「智恵と徹だね。久しぶり。」


前の方から声がした。声の方には、尻尾が2つに裂けた黒猫が一匹いるだけだった。


「パンジーちゃん?」

「そうだよ。久しぶりだね。智恵」

「ほんとにいたのか。」

「いちゃ悪いのかよ。せっかく会えたんだ。喜べよ。」

「嬉しいけどさ。」


御守さんはパンジーという猫に駆け寄って膝に乗せると喉を撫で始めた。徹君は例によって少し上を見つめていた。


「おい!智恵!ワシの天敵である肉食獣を膝に乗せるな!臭いにおいが服に着くであろうが!」

「うるせぇよジジイ。てめえもガマの穂臭いだろうが。いいかげん、その衣脱げよ。智恵にまでその臭いがついてたまったもんじゃあねー!」

「赤子の癖に生意気を言うな!巫力を持たない木偶供にも神々しく愛くるしいワシの姿を見せてやろうという粋な計らいが分らんのか!?」


パンジーは御守さんの膝から飛び降りると、シーナと追いかけっこを始めた。そのうち、2匹は後ろ足だけで立ち相撲を取り始めた。御守さんはそれを見ながら涙を流して追加でティッシュを取り出していた。


「オデにも1ヂマイくれ。」


徹君が鼻声でティッシュの一部返却を求めた。


「アレルギーだったけ?猫アレルギーって、猫の妖にも反応するん?」

「しだんよ。」


徹君の鼻水はティッシュ1枚どころでは止まらなかった。


「騒がしい。静かにせんか。神の御前であるぞ。」


振り返ると、そこには2頭を持つ巨大な白蛇が居た。


「ひっ。」

「な゛ぐお、びえでんの?」

「う、うん。」

「癒せ!まじかよ。御守、あの妖、ランク付けすると、A?」

「た、多分、A++。」


御守さんが相撲をとっていた2匹を抱えて僕の方に急いで走ってきた。徹君が自分に回復魔法をかけると、鼻声が治った。


「御守!パンジーと南雲を連れて逃げろ!猫が近くにいると、集中できん!!」

「分かった!南雲君!行くよ!」

「分かった!」


僕等は、徹君から50m位距離を取った所で止まった。


「|幸魂奇魂守給幸給《さきみたま くしみたま まもりたまひ さきはえたまえ》災厄を退け、悪しき者から我を守り給え。」


御守さんが詠唱しても、何も起こらなかった。


「やっぱり、もう駄目なんだ。じゃあ、答えよ先人の遺志インクルード・インヘリタンス


御守さんの詠唱に伴って、僕等の周りに水色の結界が展開された。徹君の方を見ると彼は、白大蛇は何かを話していた。遠くにいるのにも関わらず、徹君の声をはっきりと拾える。


「余は、八岐大蛇。ヤチホコ様より力を賜り現身(うつしみ)に神の力を宿し、八岐大蛇の名を授かった。」

八千矛神(おおくにぬし)様の事なん?ここ出雲で八岐大蛇を倒した神の名を名乗って蛇の妖を消しかけるって、そんなに喧嘩買って欲しいのか?大体、あんた頭2つしかないだろうが?どこが八岐(やまた)なんよ?」

「余は妖などという低俗な存在では無い!我が毒牙で祟り、生殺しにしたまま喰ろうてくれる。神を侮辱した罪、余の腹の中でじっくりと公開するがいい!」


白大蛇が叫び徹君に襲いかかった瞬間、徹君の周りに黒い影が出現したかと思うと徹の姿が消えた。白大蛇の刃が空を切った。


本物(マジもん)の神の祟りと神格の違いを知れ!見ててよね。ミカばーちゃん。」


白大蛇の目の前に現れた別の影と共に徹君が現れた。彼は紅白の巴紋が背に描かれた白を基調とした羽織を着ていた。


「雪椿、保て中庸。我は影、常闇に落つ。汝は、光、月明かり。帰路を照らし、我を導け!」


徹君の詠唱と共に彼の右手には白い光の玉、左手には踊る真っ黒い影が現れた。彼は手前で両手を合わせて何かを引き抜いた。それと同時に彼の姿がどす黒い闇に包まれた。


「禍々しい。何だその黒い十字剣は?そなたの方が我よりも八岐大蛇らしいではないか。人の躰には余りある妖力だ。其方、かろうじて、その白い鞘で自我を保っておるのだろう?フフ、フフフフフ。ハッ!!よいぞ!!面白い余興だ!!余の威光を示すよい機会ではないか!其方を喰って、余の力を神域まで高め、幽界の中心であるこの土地を支配してくれるわ!其方はいつまで正気でいられるかのう?余が遊んでやる!」


再び白大蛇が徹君に襲い掛かった。徹君は左手の黒い十字剣と右手の白い鞘で白大蛇の牙を受け止めた。そのまま牙を押し返して、腹の下に潜り込んだ。大蛇は徹君の動きを封じようと髑髏を巻き始めた。徹君は空高く跳び上がり、それを躱した。


「馬鹿が!」


そう叫ぶと白大蛇も跳びあがった。蛇牙が徹君を貫と思った時、徹君を闇が包んで、闇が弧を描く様に地上に降り注いだ。蛇牙は闇の残像を掻いただけだった。


「ひ、人の動きじゃない。」


思わず僕は呟いた。彼の動きは人というよりも、むしろ、もう一匹の大蛇、黒い闇の大蛇だった。

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