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覇王の剣 ~魔術剣士と本の虫~  作者: 如月築志
本の虫は寒さに弱い
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引火体質のクラスメイト

 彼に話しかけようと決意した次の日、僕はとてもそわそわしていたのを覚えている。女子と話をする事が苦手であるということには薄々気づいていたのだが、まさか、男子と話をすることに対してこんなに緊張するなんて思ったことは無かった。普段、事務的な対応をする際には、女子とでさえ、僕は全くコミュニケーションに支障をきたす事など無かった。この日、もしかしたら友達ができるかもしれないという期待に僕は胸を躍らせていたのだろう。普段、僕は学校で必要以上に言葉を発しない。僕のクラスメイトには、僕は何というか、静かにしているのが好きな陰気なキャラとして定着しているはずだ。そんなキャラの人間が不必要に陽気な話でも始めると注目を浴びるかもしれない。物珍しさで注目を浴びたり、イジられるのが嫌な僕は中々彼に声を掛けられず、ただそわそわとしていた。


 彼は給食の後、決まって 1 人で教室の外へ出ていった。学校で彼に話かけるとしたら、僕の中ではその時が唯一のチャンスだった。いつも通り、彼は給食の後にエナメルバッグを持って教室から出ていった。僕は、それを怪しく思っていた。彼は、部活動に入っていなかった。彼は、自主トレをするわけでもないのに不必要な荷物を提げて、毎日、昼休みにどこかに行くのだ。そのバッグの中に彼に寂しさを感じさせる間も与えない充足感が詰まっているかもしれないと思うと、その時の僕は彼と仲良くなって彼にその中身を見せてもらいたいという気持ちで一杯になっていた。僕は彼を見失わない程度の距離を保ちながら、彼の後ろを着けていた。


 彼は外履きに履き替えると、さながら昼の自主トレをする運動部の如く体育館の影へと歩いていった。僕は彼に気づかれない距離を保ちながら着いていこうとしていたが、彼とは別な人影に気づいて足を止めた。3 人の上級生達だった。上級生達は、何やらニヤついて、彼の後をついていく。あまり人づきあいが得意でない僕にも上級生達の雰囲気は、彼とは違うものだということくらいはつかみ取れた。思いもよらない出来事に僕は足がすくみ、立ち止まっていた。この時、今から何か良くないことが行われるかもしれないという予感が僕の背筋を凍らせて動かさなかった。しかし、彼の秘密を知られるかもしれないという期待に僕の胸は熱くなっていて、その興奮が凍った背筋を溶かしていくのが分かった。僕は、彼にも上級生にも見つからないように体育館の中へと急いで回り込み、床の近くにある小窓を開けて、そこから彼と彼の後をついてきた 3 人の上級生を観察することにした。


 彼は、しゃがみこんで地面にエナメル銅線でできた輪を置き、その輪の中に空き缶を置いていた。そして、彼はバッグからペーパーナイフを取り出し、それをエナメル銅線に触れさせて、ぶつぶつと何かを唱え始めた。そこへ上級生達がやってきた。


「おい!こんなところで何をやってるんだ!?」


3 人の上級生達のうちの誰かが大きな声を上げた。残りの 2 人が馬鹿にするような笑い声を上げる。彼は振り向いて、目を細め面倒くさそうに立ち上がった。


「理科の実験ですよ。何か問題がありましたか?」


僕がいた小窓からは彼の顔が見えなくなっていたが、彼の声は心底面倒くさそうで上級生に対して、一切の気負いを感じられなかった。


「おい!上級生に対して何だその態度は!?」


先ほどの上級生が彼に対して食ってかかる。それでも、彼は微動だにしていなかった。


「そんなに大声を上げて注意される様なことはしていません。それと、貴方が上に立つものだというなら、それに相応しい立ち振る舞いを見せて欲しいですね。品がないですよ。先輩。」


彼は荒々しい態度の上級生をなだめるどころか、煽るような言葉で面倒くさそうに回答する。案の定上級生は激昂したようで、「あ!?」という不良によく似合いそうな音声を上げて彼に近づいて行った。彼の踵が宙に浮いた。上級生が彼の胸倉を掴んだのだろう。僕はこの時、恐ろしい気持ちで一杯になっていた。彼の態度は常識的に考えて、上級生達を激昂させるに十分なものだった。彼の言い分には確かに非は無さそうだが、僕以外の人から見ても、彼の態度は火に油を注ぐものであり、擁護しがたいものだった。逃げ出したい。余計な事に巻き込まれたくない。そんな気持ちにさいなまれる一方で、僕は自分と同じく 1 人で学校という閉鎖的な空間にいる彼の身を思いやった。ただでさえ、1 人でいるのに形上の立場が上の上級生に疎まれ、これから暴力を振るわれる彼の身を思いやった。せめて、目撃者として、こっそり証言してあげるくらいはしてもいい。僕は消極的な正義感でその場に踏みとどまった。


「結界外での魔法の使用は規則違反だ!例え、訓練でもな!」


彼の胸倉を掴んでいた上級生が声を荒げた。『魔法の使用』その言葉を聞いた時、その時、僕が余計な事に巻き込まれそうになっているということを忘れさせる程に、僕の好奇心は高まっていた。


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