似通った事情
徹君の話によると、最近の魔術は高度化していて初心者でも簡単に使えるようになってきたらしい。元来、魔術というものは門外不出であり、術式を門下以外にも開示する事に対して拒否感を露わにする者も少なくない。しかし、門徒として長い時間をかけて狭い知識を身に着けるという時代遅れのやり方に着いてくる若者がいなくなっている。手っ取り早く実力をつけて活躍できるようにお膳立てしなければ、若者を科学技術の進歩した便利な世界に取られてしまう。人不足は魔術の世界でも深刻な問題なのだ。今では、各門の魔術や魔力の源を持ち寄って魔術を標準化し、一端の魔術師の養成に力を入れる事が全国的に、世界的に当たり前の事になっているらしい。僕が住んでいる県でも魔術の標準化は進んでいて、この土地で標準化に大きな影響力を持っているのが御守さんの家だそうだ。自分の試験の日だというのに、徹君はとても丁寧に説明を続けてくれた。
「緊張をほぐしたかっただけさ。さんきゅ。南雲が居なかったらガチガチだったかも。それに、今俺が使える魔術は回復魔法の系統だけなんだ。魔術の復習する必要も無いしね。そもそも、人払いの結界を張れないから自分から魔術の練習はできんよ。」
徹君はそう言っていたけれど、自分が持っている知識を躊躇なく他人へ与えられる徹君や御守さんは凄いと僕は思った。知識や経験は分けても減ることは無い。しかし、知識や経験を得るには努力や苦労が必要だ。それを分け隔てなく無知で力の無い僕にも与えてくれた。この世界で最初にあった人が彼等では無く、別の人であったのなら、僕はこの世界に足を踏み入れなかったかもしれない。
「最初に会えたのが徹君と御守さんで良かった。魔法の世界って楽しそうだなって思えた。ありがとう。徹君、御守さん。」
僕がかけたお礼の言葉に御守さんは満面の笑みを返してくれた。それに対して、徹君は少しうつむいて微笑んだ。そして、口元に手を当てて上を向いた。
「もし、お前が魔法の世界に進むのなら、俺に関わるのは今日までにした方がいい。後ろ盾がいないビギナーのお前には後ろ指をさされ遠巻きにされるのは大きなリスクだから。」
「ど、どういうこと?」
「俺は呪われているんだと。あ、うん。悪い。言い方悪いな。この土地で邪心扱いされるような神様に祟られてー、すまん。ごめんて。魅入られてるらしいんだ。」
「徹君。せっかく仲良くしてくれてるのに、そんな言い方しなくても。」
「うん。そうだよな。ごめんな。御守、南雲。」
僕には突然打ち明けられた呪いと世間体や立場の話よりも、中学で初めて作った友達に近づくなと言われた事の方がショックだった。御守さんも目を虚ろに細め、俯いていた。それから、沈黙が続き、僕らは電車を降りた後もしばらく無口なままだった。




