価値観を認めあえる友達
徹君と御守さんは道中に色々と僕が知らない世界の事を教えてくれた。火、水、土、風、雷等を引き起こす超自然的な要素が組み合わさったものが魔法である事、これらの要素を人為的に誰でも使えるような公式や呪術へと組み立てたものが魔術や巫術である事、本質的に魔術と巫術は同じものである事。現代世界の覇権争いに伴って、魔法の原理を使った呪術を国際的に魔術という呼称で統一されている事、魔術を使用する事を公に認められる称号として、魔術士や魔術師がある事、御守さんは既に指導者、つまり弟子を取ることを許されている魔術師という称号を所持しており、徹君は、御守さんの弟子であり、今回の試験に合格して魔術士の資格を取ろうとしている事。テイクアウトした神在ロールケーキを片手にほおばりコーヒーを飲みながら聞いていた。御守さんが張った人払いの結界のおかげで、大社駅にいるというのに、ベンチに座っている僕の周りには人が集まってこなかった。3人座れるベンチに座っているのは僕だけなのに。僕の目の前に御守さんと徹君が立っていた。
「僕一人でベンチを占領するのは悪いよ。」
「ま、御守の結界の効果で俺らはベンチに座っているように見えてるから。」
僕の気遣いを余所に、徹君はベンチに座らずにベンチを占領していた。御守さんは人払いの結界に幻影の魔法をかけていたらしい。
「魔法って便利なんだね。」
「一般人が着用している MR: Mixed Reality グラスをハッキングして仮想人物を映し出しているのと大差ない。」
「自慢げに言ってるけど、徹君が行使した魔術じゃないでしょう? MR ?って何?」
魔術の世界に生きる人にも徹君の様に IoT: Internet of Things 技術に詳しい人はいるらしい。聞くと、最近まで徹君は僕と同じ一般人だったらしく、御守さんに弟子入りしてから半年たったか、その位らしかった。僕と徹君は御守さんに MR の説明をした。僕は自分が知っている事を相手に伝えたくて途中から僕ばかり話してしまった。知識を教えてもらった代わりに僕も僕が教えられる知識を伝えたいという気持ちが普段無駄口をきかない僕の背中を押してくれた。途中、話し過ぎているかと話ながら徹君と御守さんの顔色を窺っていたが、彼らは楽しそうに話を聞いてくれていた。友達と何かを与えあう喜びで僕の胸は膨らんでいた。
MR の事を話していると、電車が走って来た。観光地を走る路線はピンク色が基調で黄色い猫が描いてあり、良縁を求めてやってくる観光客に受けそうな可愛いものだった。




