名前負けする失恋と友達の優しさ
「南雲。おーい。」
「な、何?」
「聞いてた?」
「ごめん。」
僕が色恋に悩んでいた間にも話は進んでいたらしかった。
「孝和ちゃんそうにしてるね~。少し上がっていくかい?温かいお茶でもだすよ?」
「ありがとうミカおばあちゃん。でも、急ぐからやめとくよ。試験中だからさ。」
「残念だね~」
「おばあちゃん、椿の花を1輪もらってもよい?」
「いいよ」
ミカおばあさんの有難い申し出を徹君が即答で断った。御守さんは庭の端に植えてある椿の花を摘みにいった。色んな木が植えてある家だ。花を摘んだ御守さんが小走りで僕の方へ向かってきた。
「照らせ日よ。木漏れ日明かし。気づかずも、彼の者包み、ぬくもりを」
御守さんが僕に向かって花を韻を踏んで唱えると僕の頭上で椿の花がゆっくりと周り輝き始めた。気持ちに温かさが戻ってきた。
「即興かい?韻は踏めてたけれど、和歌としてはねぇ~」
「えー。おばーちゃんひどーい!いーの。実用重視だから。」
おばあちゃんのピリ辛批評に御守さんがむくれた。彼女の顔はむくれても可愛かった。
「寒そうだったから、魔法で温かくしてみた。」
「南雲!椿の花を使った付与魔法には代償がある。状態向上の効果が切れたら、反動で被術者の状態に歪が生じて一瞬急激に低下するから気をつけてな。」
「歪む感じ?」
「うん。歪に抵抗しないとつららで刺されたように寒くなるかもね?」
「ひっ。」
御守さんのやさしさでもっと温かな雰囲気になるかと思ったが、徹君がくれた補足情報で僕の背に冷や汗が走った。
「徹君!脅かさないの!」
「ホントの事でしょ。逆にしっかりと教えてあげようよ。南雲は一般人なんだから。南雲、最初の宿題だな。状態低下に抵抗してみればいいと思う。魔法に抵抗する感覚が分かるんじゃないかな?」
「う、うん。そうだね。」
御守さんも徹君も優しい人だけれど、2人の優しさは対照的だった。できるだけ相手を傷つけないように遠回りに話していく御守さん。それに対して、相手の必要な情報を確実に伝えていく徹君。2人の優しさは時に人を選ぶかもしれない。
「南雲、これから俺達は蛇の妖を追って湖の近くにある祠まで行く。電車賃は俺が出すよ。」
「うちは自分で出すよ?勝手について来たんだからね。」
「わかった。ま、代わりに何か奢るよ。南雲にも何か奢るよ。」
「い、いいよ。さすがに悪いよ。」
「ま、いいから。いいから。なら、行こうか。」
徹君が僕の肩を叩いて歩き出した。御守さんも徹君に続いた。




