試験官の無茶ぶり
「無茶だよ!危ないよ!」
御守さんが徹君に駆け寄って来た。それを見て僕は心が妬ける感触を覚えた。
「ま、大丈夫でしょ。この間だって大丈夫だったんだからさ。」
徹君は御守さんに微笑んで答えると、真っすぐに試験官を見据えた。
「私も、私も試験に同行させて下さい!!」
御守さんが試験官を振り返って声を張り上げた。
「それはできません。今回は試験なのですから、一切の援助も助言も認められません。思念伝達によるカンニングの恐れもあります。同行は認められません。」
「今回は、一般人の南雲君の見学も兼ねています。一般人を未熟者の菅原と共にAランク相当の単独任務に同行させるなどという無責任な事は、彼の師としては認められません。」
「それでは、一般人の彼は置いていけばいいだろう。カンニングの恐れがある以上は、」
「それならば、私を式神で監視して下さい。それならば、構わないのではありませんか?」
御守さんと試験官が攻防する中で徹君は動じないで真っすぐ試験官と御守さんを交互に見ていたが、不意に僕の方を見た。
「確かに危険だ。なら、南雲の意見を尊重しなければならないでしょう。危険ならば、ここに残る事が南雲にとって一番いいと思う。南雲、お前はどうしたい?」
僕が返答に困って菅原君と御守さんを交互に見つめていると、御守さんの唇が動いた。
「お願い。」
そう言っている気がした。それを見て、僕は下をうつむいた。下を見ると、目に見えて膝が震えているのが分かった。それを徹君に悟られないように足に力を込め、僕は徹君をしっかりと見つめた。
「ぼ、僕は見届けたい。友達の勇姿を、秘密を打ち明けてくれた友達の世界をもっと知りたいんだ!」
「えっと、ありがとな。」
僕の答えを聞いた徹君は目を丸くして微笑み答えた。気のせいか、彼の顔ははにかんでいるように見えた。御守さんが僕に駆け寄ってきて、僕の手を握った。産まれて初めて感じた年頃の女の子の手の柔らかさとぬくもりに驚き、僕の体は熱くなり、その熱が顔まで到達したのを感じた。
「ありがとう!南雲君!安心して!南雲君はうちが守るから!」
緊張でガチガチになった僕は御守さんの迫力に僕はたじろいて、ただ頷いた。徹君が試験官の前に歩み出て深々と頭を下げた。
「俺からもお願いします。御守を試験に同行させてください。南雲には、この世界へ導いた者としてしっかりと責任を果たすため、この世界の事をしっかりと俺から伝えたいです。しかしながら、私は未だ半人前。南雲を守りながらこの任務を遂行することは困難です。南雲の安全のために、御守が必要です。」
「いいでしょう。御守様、あなたに式神をつけて監視します。でも、安心して下さい。貴方の心を盗み読む式を付けたりなど致しません。貴方の魔力を感知する式で貴方の魔法が菅原君を援助していないか我々が判断します。菅原君がこの実地試験に合格すれば、Aランク相当の魔術師として認められますから、彼をほら吹き呼ばわりするやからは居なくなるでしょう。」
試験官の答えを聞いた御守さんは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
御守さんと徹君がハモらせて返事をした。御守さんに続いて僕も試験官に頭を下げた。
「妖について、詳細な情報を私達からは伝えられません。全て自らの手で解決して見せなさい。」
試験官の声に御守さんと徹君が顔を上げた。御守さんは何か言いたげだったが、先に徹君が口を開いた。
「よろしくお願いいたします!必ずやご期待に応え、試験に合格してみせます!」
はっきり大きな声でそういうと、徹君は再び、深く頭を下げた。そして、元来た道を歩き始めた。
「さ、行こうか。さっさと終わらせて、打ち上げでもやろうよ!奢ってくれよな!師匠!」
徹君は僕らを振り返って片手で拳を作り、もう片方の手のひらを殴った。
「はー。調子に乗らないの。」
御守さんがため息をついて、徹君に続いた。僕も彼等を追いかけるように異界の扉へと進んだ。振り返った目の前にあったのは、見覚えのある僕等の街にある白く巨大な鳥居だった。
2019/01/15 18:32 試験官の会話を編集しました。




