嬉しい再会
「遅かったね。」
良く知っている憧れの声が前から聞こえた。目を開けると、そこには御守さんがいた。予想していない人物の登場に僕の胸はときめいた。
「人目を避けてたから遅くなった。ごめん。」
徹君が素直に謝った。
「御守さんも試験を受けにきたの?」
「ううん。うちは、徹君の師匠として試験の立ち合いに来たの。」
僕が声を弾ませて御守さんに訪ねると、御守さんからは意外な返事が返ってきた。
「ハッ。人目を避けてか。人払いの結界も使えんのか。そんな奴に魔術師の試験を合格できるものか。」
御守さんの後ろに目をやると、そこには数人の白い和服を着た人物達がいた。おそらく、試験官達なのだろう。僕は彼らに深々と頭を下げた。
「初めまして、な、南雲孝和です。今日は、菅原君の試験を見学しにきました。よろしくお願いします。」
試験官達は、僕に一目向けただけで徹君を睨みつけた。
「菅原君、君はこの世界の事を良くは思っていないはずです。なぜ、この世界へ進みたいのですか?」
「確かに、この世界は嫌いです。でも、この世界に進まないといけない理由がある。」
徹君は真っすぐに試験官を見つめて答えた。
「この世界にはこの世界の掟や規律があります。それに縛られる事になりますよ。」
「構いません。それが守るに足るものなら守りましょう。」
全面的な肯定をしなかった徹君は試験官とばらく睨み合っていた。不穏な雰囲気をためらいなく作り出した徹君を横に、僕はあたふたして周りの人の顔を伺った。
「まあ、いいでしょう。それでは、試験内容を説明しましょう。」
「お願いします。」
僕の不安を余所に、試験は進んでいった。
「最近、蛇の妖が浮世で悪さをしているという噂があります。それを解決して見せなさい。」
「お待ちください。実際に任務をさせるのですか!?魔術師の昇格試験では無いのですよ!?」
御守さんが試験官の方を振り返り、声を上げで抗議の意を示した。
「御守様、これは我々が提示できる最大限の忖度なのです。彼は未だ未熟。普通の試験ならば、間違えなく落ちるでしょう。しかし、今回の試験は難易度が高い。この試験に合格できれば、他の者も菅原君の実力を認めざるを得ないでしょう。」
先程、徹君を非難した人とは別な試験官が御守さんをじっと見つめて答えた。
「任務のランクはいくつなのですか?」
「ランクA-、もしくはA相当です。菅原君、試験を辞退しますか?」
御守さんが後ずさりしてこちらを振り返った。彼女の口はへの字に曲がって、目が潤んでいた。
「ご配慮感謝します。もちろん、受験させて頂きます!」
徹君の声は震えることなく真っすぐ響いた声で回答した。




