本の虫は寒さに弱い
朝早く外に出た時に寒さに震えて縮こまって足元に目をやると、草に霜が降りているのが目についた。12 月初めの週末、季節が完全に冬へ移った。身も心も凍てつき始めるこの時期に僕は彼らと出会った事を思い出す。僕は、縮こまった体を起こして顔に微笑を浮かべた。ほとんどの人が一年で一番心が冷え切るであろうこの季節に僕は彼らと出逢えた事を思い出して、一年で一番前向きで温かな気持ちになれる。
あれは、 10 年前、僕の中学 1 年の冬が始まった頃だった。当時の僕は人づきあいが苦手で、昼休みには独りで図書室に籠って本を読んでいる本の虫という言葉がお似合いの少年で、放課後は真っすぐに帰宅して机に向かっていた。本を読むことに対してとても充足感を感じていたし、この行為は僕が好き好んで行っていた事だった。それでも、いつも独りであった事に対して人並に寂しさを感じていなかった訳でもなかった。特にこの寒い冬の時期には、何が面白いのか解らないセンスの欠片もない冗談を言い合って腹を抱えている同級生を見ると、より一層自分が孤独であることを実感してしまう事があった。
「品がない」
楽しそうな同級生を横目に、そう僕は呟いた。しかし、冷たい言葉とは裏腹に、僕は心の中であの温かそうな輪の中に加わりたいという気持ちを燻ぶらせていた。羨んでいたのだ。僕は、人里離れた田舎の小学校出身で、バスで街中の中学まで登校している。クラスには僕と同じ学校出身の生徒はいない。しかし、新しい環境で学校生活を始めても、大概友達を作り終えているのが 2 学期だ。他のクラスの僕と同じ小学校出身の学生はとっくに僕の他に、友達を作っていた。あのセンスの欠片もない冗談を言って笑っている同級生の中には僕と同じ小学校出身の学生もいた。僕は、その姿を見て、自分が孤独であるという自覚と焦りにも似た感情を感じていた。
丁度この頃に、僕はクラスの中にももう 1 人だけ僕と同じようにいつも独りでいる少年に気づいていた。足が早いほうで、授業での教師の質問に対する受け答えを観察してみるに、成績は悪くなさそうだった。背格好も悪くなかった。僕には一見して彼の欠点を見いだせなかった。何か問題があるから独りにならざるを得ないわけでは無く、彼は、独りを好んでいるようだった。彼は、寂しそうな表情を見せることなく、いつもどこか斜め上を見ているというか、心ここにあらずといった様子だった。僕は寂しさを紛らわせたい気持ちよりも、自分と似た匂いのする彼への好奇心から、彼と話をしてみたくなった。