音楽室の幽霊(前編)
西日が差し込む廊下を1人歩く少女。
「もうみんな帰っちゃったかー」
忘れ物を取りに教室へ戻り、更に部室への忘れ物に気付き、やっと帰る準備が出来たところだ。
「あれ?」
合唱部の部室からピアノの音が聴こえてくる。悲しげで静かな曲。音楽には疎いが、弾き手がなかなか敏腕であることは彼女にも分かった。
「合唱部ってもう帰ってたよね?」
練習でもしているのだろうか。だとしたらもう下校時間が迫っていることを教えてあげた方がいいかもしれない。部室に近づく。中を覗くと、髪を乱した白いワンピースの少女が。
「えっ、」
髪に隠れてその表情は見えない。でも、何故制服ではなく白いワンピースなのだろうか。
その時、ピアノがはたと止む。女がこちらを振り向いた。その目は赤く、鋭く、異質な雰囲気を醸し出していた。
「な! なに、だれ……」
その眼力に圧倒され、その場に尻餅をつく。
「ひっ」
目の前のドアで視界から少女の姿が消える。
早く、帰らないと。いつこのドアが開き、女が襲いかかってくるか……。
一瞬のうちよぎった想像に恐怖し、逃げようにも足に力が入らず、ただ震える。
「うふふふふ……あはは…………」
不気味な笑い声。あの少女のものだろうか。近付いてくる。あの赤い目が頭によぎり、恐怖が最高潮に達する。
「ああ、だ、だれかっ」
いよいよ大粒の涙を流した少女は、最後の力を振り絞って立ち上がり、よろけながらも必死に足を動かして、なんとかその場をあとにした。