恋葉ちゃんのプチ家出(後編)
細かい疑問はポイしてください。考えずに書いてます←
「およ?」
今日は随分来客が多い。ほとんどはドア前で喋るだけで帰っていく。ただ、今回もそうなら、もう食料は十分足りているんだけどなぁ。
小遣い稼ぎも兼ねて趣味で動画サイトに投稿しているゲーム実況動画の編集をしていると、ドアが控えめにノックされたのだ。
開けるとモコモコした猫さんパジャマを着た可愛い女の子が二人。
「おやおや、玲と……エヴァンジェリンのとこの。そう、恋葉」
珍しい組み合わせだな。まあでも知らない間に、いや、そもそも付き合いがあったとしても不思議ではないか。
「れーら先輩だ」
恋葉は驚いているようだ。ここまで連れて来たのは玲の方らしい。
「れーらおねーちゃん、今日泊めてください」
ふむ、事情は何であれ、可愛い女の子は大歓迎だ。
「まあ、入ってよ」
目の疲れもあって、編集時かけている黒縁眼鏡を外し、机に置いてから3人で簡易テーブルを囲って座る。事情を聞いてみると、要は拗ねて家出しに来たらしい。
可愛いなぁ。
「わぁ、お菓子いっぱい。どうしたんですか?」
机に山積みになったお菓子を見て目を輝かせている。そういえばお菓子が好きなんだったな。
「ああ、誕生日プレゼントにもらったから編集作業のお供にしてたんだよ」
「おめでとうございます」
素直にお祝いの言葉をくれた玲とは対象的に、恋葉はあたふた。
「え! あ、一緒に食べようと思って持って来たお菓子なら!」
律儀に持っていた紙袋の中からいろんな種類のお菓子を取り出しながら、慌てたように答えてくれる。
「ありがとう。みんなで食べようか」
お皿と飲み物を準備してまたテーブルにつく。恋葉は反応が面白いから、ちょっといじってみよう。
「ところでさっきのお泊まりの件だけど。泊まらせてあげたら、何くれる?」
「えっ! えっとえっと、じゃ、じゃあ、何でも! します!」
「ほーう、言ったなー。それなら体で払ってもらおう」
「かかか、からだ!?」
予想通りのリアクションをしてくれた恋葉の背後に周る。頬にすりすり両手で2人ともいっぺんにハグハグ。シャンプーの香りが鼻をくすぐる。小さくて抱きやすいサイズ感。うん、いいね。
「わわ!?」
「お風呂上がりの女の子っていつもよりもっといい匂い〜両手に華で幸せだな〜」
対して玲の方はリアクションに乏しいが、まあ可愛いから許そう。ぬいぐるみに触れてしまえば一気に不機嫌になるんだろうな。それもいいけど。
「あ、ゲームしてたんですか?」
「いや? あ、みんなでやろうか。意外と複数人でやること少なくてさ」
1人でやるのも好きだけど、やっぱりパーティーゲームなんかは複数でやった方が楽しいしね。
◆
結果を言うと玲の勝利だった。元々ゲームが好きというわけではなかったけど、彼女には運が味方したらしい。恋葉は気合充分で玲よりは慣れていたけど、自分には勝てなかった。ゲームだし容赦なんてしないよ。
数時間ほどお菓子をつまみながらゲームすると、2人とも疲れたようなのでベッドを勧めた。自分はまたパソコンを開き、しばらく動画観る。時間は、20時過ぎ。ふむ、そろそろ探してるんじゃないか?
「ファッションショーしてるんだっけ? この時間にまだやってるなんてことは……無くもないか」
しかし全く連絡を入れないというのもなんだか悪いことしているようだ。
ベッドに近づくと2人は背中同士をくっつけて眠っていた。ルームメイトもこの時間に帰ってないということは泊まりだろう。別々に使っても良かったんだけど、これはこれで……。
パシャリ
可愛い子猫ちゃんたちは私があずかった。
送信、と。
連絡先を知っているのはエヴァンジェリンの方だけなので、彼女とのチャットに写真も送る。
「これで大丈夫か」
それからしばらくまた動画巡りをしていると、強めにドアがノックされる。来たか、と思いドアを開けると、チャイナ服を着た少女が2人。
「うわっ、何このダサい人。ファッションセンス有り得ないんだけど!」
すみませんね、こだわりが無いもので。
「麗羅さん! いったいどういうことですの!!」
玲の彼女、初めて見たな。可愛い。そして流石のエヴァンジェリンも怒ってる。
「待って。彼女たちを返して欲しければ……あー、うまいセリフ見つかんないや。とりあえず、今日のところはここに泊まらせてあげて。明日は満足して帰るだろうから。今は寝てるし」
一応、恋葉たちの味方をしておく。
「帰るって、お姉さんが誘拐したんじゃなかったの?」
「違うよ。自分で来たんだ。君たちが構ってくれないから拗ねてるんだよ。それで家出してくるなんて可愛いよね」
「ん……菜翠?」
あーあ、おきちゃった。玲に続いて恋葉も目を覚ます。けど、しっかりとエヴァンジェリンの方を見てからまたベッドに潜り込んだ。拗ねてるな。
「恋葉! 部屋に戻りますよ!」
「やーだー。エヴァちゃんが浮気するもん〜」
「浮気ではありませんわ! ただのスキンシップです!」
「れーら先輩とゲームするの楽しかったし」
エヴァンジェリンが物凄く悔しそうな顔をしている。彼女の暴走っぷりはよく耳にするけど、やっぱり1番は恋人の恋葉なんだろう。でも、ゲームを楽しんでもらえて何より。ニヤリと笑って返す。
「わたくしには恋葉が1番ですのよ!」
「みんなとキスしてちゃそんなの分かんない」
彼女もなかなか強情らしい。
「わたくしの恋葉をとるなんて、何でそんなことするんですか麗羅さん!」
何故自分に怒りの矛先が。
「自分はただ、せっかく来てくれた可愛い女の子たちに楽しんでもらいたかっただけだよ。それに君の自業自得じゃないか」
「恋葉〜、戻ってきたらいっぱい甘やかしてあげますから〜」
おっと、エヴァンジェリン選手、下手に出る作戦に出た模様。
「玲も早く戻ってきて。みんな玲がいなくて寂しそうだよ」
みんなとはおそらく部屋で待っているぬいぐるみたちのことだろう。
「……」
こちらはおそらくほとんど恋葉の提案に便乗したようなものだろうから大丈夫。実際気まずそうな顔してるし。
「恋葉、ほら、戻ってくればお菓子たくさんありますわよ〜」
ベッドに近付いて恋葉がこちらをみている布団の隙間から持っていたらしい飴をちらつかせる。いや、いくらお菓子好きだからって飴に釣られるなんて……
「……」
「恋葉、ごめんなさい。帰ってきてください」
「……」
ぴょこんとついに顔を出した恋葉にすかさずキスするエヴァンジェリン。あーっと、仲直りするのはいいけど、
「はいそこまでー。人前でそれ以上イチャイチャしなーい」
おっぱじめるのは勘弁な。明らかに不満そうなエヴァンジェリンだが、恋葉の方は嬉しそうだ。
「お姉さんたちすごっ。まあ、後で、さ。僕たちもね? 明日はちゃんと勉強しなきゃね」
玲の方も今度は素直にこくんと頷く。うんうん、これで一件落着。
「麗羅さん、これどうぞ」
「うん? 何?」
大きな紙袋の中には、大量のお惣菜。
「どうせならみんなでケーキでも食べたかったんですが、甘いものは苦手だったでしょう? それにお菓子はみなさんからもらってるでしょうから、ディナーはいかがです?」
誕生日も苦手なものも覚えているうえにプレゼントをくれるとは、だから彼女は慕われるんだろうなぁ。
「ありがとう。時間も遅いから、あんまり騒がしくしちゃダメだよ。ほら、恋葉もいい加減出ておいで」
テーブルに戻ってきた恋葉に「あーん」とお菓子を差し出すと、素直に口に入れてくれて可愛かったのでまた抱きしめる。
「それはわたくしだけの特権のはずですのにー!」
「甘いね。恋葉は可愛いからきっと今もいろんな子に狙われてるよ。恋人の君が浮気してるんじゃあいつ振られてもおかしくないね。やー可愛い」
「菜翠はダメなんだからね。私のエモノなんだから」
「分かってるよ。ボクには玲だけがお姫様だよ」
こちらもラブラブ。菜翠ちゃんの答えに玲は満足げだ。そんな微笑ましい雰囲気を壊すかのようにエヴァンジェリンは喚く。
「浮気なんてしてませんわ! わたくしにも恋葉だけですのよ!?」
ふふん、後ろから抱きしめてるから奪えないだろう。さて、夜ごはんの準備もしなくちゃな。
こんな風に大人数で賑やかな誕生日を迎えられるなんて嬉しいことだ。女の子の幸せそうな顔は可愛い。それに温かい。実家暮らしでこの時間まで寮にいることの出来ない恋人を想う。会いたくなってきた。幸い明日は日曜日。少し電話するくらいの事は許されるだろうか。
気付いたら2週間以上誕生日過ぎてた……麗羅ちゃんおめでとう!