手紙
#百合小説版深夜の創作60分一本勝負
より月テーマの「手紙」
で書いてみました。
手紙要素は薄いかもですが。
「桜降る季節まで。」より小野宮桜来ちゃんのお話です。
仕事、買い物を終えて帰宅すると、すぐに愛しい人が玄関に出てきてくれる。
「おかえりー。あ、買い物は任せろって言ってるだろ? 夜ごはんは?」
「ただいま。今日は肉じゃがにしようと思って」
「手伝うよ」
「ありがとう」
靴を脱いだらもう、荷物は無くなってる。いつもそう。自分だって疲れてるはずだし、これくらい自分でやれるのに。
自分の部屋に戻って部屋着に着替え、鞄の整理をしてキッチンに行く。
当然のように買い物袋の中身は空になっているし、とっくに料理を始めてくれている。
さらももうちょっと手際よく出来れば良いんだけど。
「今日は手芸教室だったんだっけ?」
「うん。手伝ってくれてありがとうね。おかげで上手くいった」
「そっか。良かった」
隣でにんじんを切ることにする。
「ちょっ、待って、ピーラー出すから」
「皮むきならもう出来るけど」
「危なっかしいからこっちにして。ほんと、包丁の使い方、上達しないよな」
料理はちゃんと美味しく作れるし、切るのも普通にやってるつもりだよ? もういい加減、心配されなくても大丈夫だよ。
「ナンパされなかった?」
「そんなことする人いないよ。高校時代の友達ばかりだったし」
「だから心配なんじゃん。隙ばっかだしすぐ好かれるし」
何人かランチに行こうってお話したのと、初めて来た人にまた来ますって言って貰えたくらい。手芸を教える場だから、たくさん話す時間があったわけでもないし。
「そういえば、朝の置き手紙、読んだ?」
聞かれて思い出す。相変わらずちょっと堅苦しく感じる文章だけど、あたたかいお手紙。顔を合わせられなくて寂しかったけど。
「あー! ごめんって! お願いだから余所見はしないで!」
ひょいと包丁を取り上げられてしまう。その顔をみてつい笑ってしまって、また怒られる。
頼もしいなぁ。
「もう! 嬉しかったのは分かるけどさ。手紙なんてそもそもいつまでもとっておかないよ。大したものでもないのにさ。ほんと、大袈裟だね」
そんなことない。もらった手紙は全部大事だし、特別だもん。
「大袈裟じゃないよ。全部とってある」
「わたくしのも?」
「もちろん」
隣に並んでいてつむじしか見えないけど、きっと顔を赤くして照れてるんだろうな。可愛くてつい頭を撫でる。
「でもさ、ちょっと出かけるだけなのに、毎度手紙書くなんてやっぱり大袈裟じゃない? 起こしてくれればいいのにね」
「そうかな? もう慣れちゃったし、嬉しいからそんなこと考えなかったな」
「ふぅん。ねぇ、さーちゃんってさ」
「なぁに?」
家でだけ呼んでくれるその名前にちょっとキュンとしながら聞き返す。
「母さんのこと、どんだけ好きなの。仲良いのはもちろん良いんだけど、こっちが恥ずかしくなるよ。今回だって、たった1週間実家に帰っただけじゃないか」
「うふふ。そりゃあ弘美ちゃんの事は大好きだよ。椿ちゃんと同じくらい」
何故か納得してなさそうな顔で、
「負けてる気がするんだよなぁ」
と呟く。
そんなことない。だって、
「大事な娘だもの。ふたりとも大事だよ。弘美ちゃんもそう思ってる。そうだ。華鈴ちゃんとはどう?」
よく話してくれるお友達。そして……
「ああうん。今度お泊まりすることになったんだ。あそこの母さんたち怖くて苦手なんだけど」
「いいなぁ。一緒に行こうかなぁ。萌香ちゃんとずっと会ってないし。何がこわいの?」
「だっていつも喧嘩してるもん。さーちゃんたちとは正反対」
まあ、確かにね。でもまさか萌香ちゃんが1人の女の子に落ち着いて子どもまでできるなんて、あの時は想像もつかなかったな。
「喧嘩するのだって仲がいい証拠だよ。いつも一緒にいるでしょ」
「そういう家もあるんだね。あ、料理の手止まってた」
指摘されて料理を再開する。
椿ちゃんのおかげでとっても美味しい夜ごはんができた。
「椿ちゃん、頼もしくなったね」
「そりゃあ、さーちゃんがボーッとしてるんだもん。母さんにも守るように言われたからね」
翌日、部活の為にさらよりも早く家を出た椿ちゃん。準備された朝食の席には、名刺サイズの花柄カードに『さーちゃんお店がんばって』と手書きの文字が。
弘美ちゃんへの対抗かな? 可愛い。
今日もお仕事頑張らなきゃ。早く、弘美ちゃん帰ってこないかな。
こういうお話もたまにはありですね。
ちなみに萌香ちゃんのお相手は登場済みですが今はまだ秘密。