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衝撃的な事実

「あなた達、ここに来るまでに変なものは見なかった?どこかの兵士とか、魔獣とか…」

「あ、そういえば!私達フェアリーを見かけたんですよ。でも追いかけても結局見つからなくて… フェアリーの血みたいなのが落ちてたから怖くて帰ってきたんです…」


メイアのその答えにオウロはピクっと反応する。


「フェアリーの血?だとしたらやっぱり… いや、でもそんなことは…」

「お母さん?どうしたの?」

「あ、いや、何でもないの… それよりみんな、もうじき夜になるわ。幸いここには食料もあるし、ここで一晩過ごしましょう。レン、二人を連れて家から鍋を持ってきて貰えるかしら?その間に私はまきを拾ってくるわ。」

「うん、わかった。」


レンとメイアは入り口の方へ向かった。しかしワーテラがついてこない。彼は母親の亡骸を抱きしめたまま一向に動こうとしなかった。


「ワーテラ、行こう?」

「ワーテラ君…」

「………ああ。その代わり、お袋を家に連れていかせてくれ。」

「お父さんも?」

「いや、親父は死ぬ時は戦ってそのまま死にたいって言ってたからあのままにしといてやってくれ。」

「わかった。」


ワーテラは母親を背負い真っ先に出て行き、レンとメイアはそのあとを追った。








レンとワーテラは幼馴染で家も隣だったので、ワーテラが母親の遺体を安置している間にレンとメイアの二人で必要な物を探すことにした。


「んーと… お鍋と、食器と… お箸もいるよね?」

「メイアちゃん、すごいね。」

「んー?何がー?」

「メイアちゃんだってお父さんとお母さん死んじゃったのに、弱気な部分を見せないで…」

「………………………………………」


メイアが動きを止める。その表情は悲しさや辛さといったものではなく、怒りにも似た感情が満ちていた。


「レン君になら言ってもいいかな… 私ね、実は虐待されてたの。」

「え…?」

「まだ私が病気がちだった頃はみんな仲がよかったの。お父さんもお母さんも私のお世話を必死でしてて、それでも私に笑いかけてくれてて。だけど病気をしなくなって私が外に遊びに行くようになってからだんだんと怒られることが多くなって… 最近じゃ『さんざん俺達が世話してやってたのに!』って殴られてたの…」

「おじさんとおばさんがそんな…」

「もちろん実の親が死んだっていうことは悲しいよ。でも、もう暴力を振るわれることもないんだなって考えると… ごめんね!こんな重い話しちゃって!」


メイアはそう言うとオウロに頼まれていた物を持って走って出ていった。ただその後ろ姿を見送ることしか出来なかったレンの内情は複雑極まりなかった。


「ワーテラもメイアちゃんも… 他のみんなだって苦しい思いをしてたんだ… 僕が頑張らなくちゃ… 僕がみんなを助けなきゃ…」








ワーテラも合流し、三人は蔵まで戻ってきた。中ではオウロがたきぎに火をつけ待っていた。


「おかえりなさい。火の準備はしておいたわ。」

「うん…」


しかし食事を始めても三人の間には気まずい空気が漂っていた。


(メイアちゃんが虐待… ワーテラは知ってるのかな…)


友達の思いがけない話にレンはひどく動揺していた。ワーテラとメイアも家族の死によって度合いは違えど心を痛めている。そんな中でも必死に平静を保とうとしている子供達の姿をオウロは愛おしく思った。


ーーー何としてでも、この子達を守らなければ。もしもの時は自分が…


「ねえ、お母さん。これから僕達はどうすればいいの?」


その声は震えていた。帰る場所を失い、同じ村で暮らしていた人々の死を受け入れるということは十歳の少年にとっては酷な現実であった。


「明日は国王様の所へ行きましょう。おそらくこの村に攻めてきたのは火の国ジャガルタ。国王様に言えばきっと私達を保護してくれるわ。だけど問題がひとつ…」

「問題って…」

「あなたのお父さんを連れ去り、ワーテラ君のお父さんを殺した男、あれは水の国のギフターよ。ギフターが裏切っているとなれば国王様もかなり焦っているはず… もしかしたら既に王都自体落とされているかも…」


"ギフター"という単語にその場の雰囲気が一気に引き締まる。先の大戦以来大規模な戦闘が皆無であった水の国タラスの人間にとって、その存在はほとんど神話に等しかった。


「そしてレン、あなたにも伝えておかなければならないことがあるわ。」

「なに?」

「あなたのお父さん、カイリ=サカモトは… 火の国のギフターよ…」

「……………………………………」


ワーテラとメイアは絶句している。まさか村の狩人で自分たちにも色々なことを教えてくれた男が他国の、それも家族や知り合いのすべてを殺した国のギフターだったなんて夢にも思わなかった。

しかしレンは、


「僕は… うっすらとだけどわかってたよ。」

「え?」

「ほら、これ。」


オウロは自分の目を疑った。目の前にいる息子はどこからともなく取り出した短剣を握っている。それだけではない。周囲には同じような短剣がいくつも浮いていた。


「結構最近のことなんだけど、朝起きたら知らない物がいっぱい落ちてて… 遊びに行く前にそれを森に埋めに行ってたんだよ。」

「え、そんなの私知らなかったんだけど…」

「だって剣とか矢とかばっかりで怒られるかなって思って… お父さんには相談したんだよ?そしたら『お前もいずれわかるさ。』って…」

「えっとごめん… 俺達まったく話についていけなくてさ。まずお前の父ちゃんはギフターで?お前にも何か変な力があって?」

「そうだよ。」

「そうだよってそんな軽く… 」


そして再び気まずい空気が流れた。しかし先程までとは違い、重苦しい雰囲気ではなくどことなくくすぐったい雰囲気であった。








食事も終わりひと段落したところで、その日はもう寝ようということになった。火をつけているとその明かりに魔獣が寄ってくるうえ、衝撃的なことが続いて心身ともに疲労が溜まった四人は起きているのも辛いほどの眠気に襲われていた。


「明日は夜が明けたらすぐに出発するから、みんな早く起きてね。」


オウロがそう声をかける頃には既に子供達は深い眠りに落ちていた。








レンは不思議な夢を見ていた。それは夢とは思えないほどの生々しさだった。辺りにはとてつもない数の死体が横たわっている。そのどれもが鎧兜を身につけている。

そして目の前には一人の男が立っている。黄色い防具を身につけたその男にはどこか見覚えが…


ーーーワーテラだ。


それは今よりも成長した姿のワーテラだった。どうやら目線が高くなっているあたり自身も成長しているようだ。

互いに睨み合うようなかたちで向き合っているうちに、自分の体が意識とは関係なく動いていくことに気づいた。夢の中での自分は左手に剣を握っているが、それではなく右手に持つ黒い何かをワーテラと思わしき男へと向ける。金属のような質感だがツヤが無いそれをレンは見たことがなかった。


「お前ともここで終わりだな。」


男はそう吐き捨てると剣を構え一気に間合いを詰める。レンは夢の中の自分が手に力を込めるのをはっきりと感じた。

バンっという破裂音とともに目が覚めた。顔のすぐ前には誰かの手が、


「やーっと起きたか。ほら、早く飯食えよ。置いてくぞ。」


そばにはいつもと変わらない様子のワーテラが座っていた。未だ心臓が高鳴っているのを感じるレンはぼーっとした頭で、寝ている間に見た夢を必死に思い出そうとしていた。

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