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怪しい追跡者

ウェンディゴの巨体が宙を舞う。しかしそれはメイアを攻撃するための跳躍ではなく、むしろメイアとは反対側に吹き飛ばされてのものだった。

よろよろと起き上がったウェンディゴの胸の部分は焦げて真っ黒になっていた。分厚い毛皮の奥まで損傷を負ったらしくしきりに雪を当てている。


「大丈夫ですか、お嬢さん。」


いつの間にかメイアの後ろに男が立っていた。長身痩躯で眼鏡をかけた男… オウロには見覚えがあった。


「メイアちゃん!今すぐそいつから離れて!」

「おやおや。ずいぶんとまぁ嫌われていますねぇ。」


男は不敵に笑った。だが目だけはウェンディゴを睨みつけている。


「とりあえずは目の前の獣をどうにかしましょうか。あれがいると話もまともにできません。」

「レン、あいつを見張ってて。私はウィルツさんを助けに行くわ。」

「うん…」


男は両手を前に突き出し詠唱を開始した。警戒しているウェンディゴは後ろに跳んで距離を取った、が背後から火球の直撃を受け地面に落ちた。

ウェンディゴが慌てて背後を見ると、気を失っているウィルツにオウロが回復魔法を唱えていた。ウェンディゴの怒りの矛先はオウロへ向き、そちらへと駆け出す。しかし今度は真下からの火球を受けて大きくのけぞった。


「え…」


目の前でウェンディゴに火の魔法が直撃している様子を見ているメイアは何が起こっているのかわからなかった。火球は何も無いところから出現しているのだ。

倒れたウェンディゴに火球が雨のように降り注ぐ。全方位から火焔を受け続けている真っ白な毛むくじゃらの体はみるみるうちに黒色へと変わり、後に残ったのは炭と灰だけだった。


「まぁこんなもんですかね。」


男はドヤ顔をメイアに見せつけるようにしながらそう言った。当然レンやワーテラも何が起こっていたかわからず困惑するばかりで、戦闘を見ていなかったオウロやウィルツは男への警戒を強めた。


「そう気を張らないでくださいよ。私は貴方達を助けてあげただけじゃないですか。」

「ハース… 何がしたい?」


ウィルツはその男をハースと呼んだ。


「お前がお父さんを連れていったギフターか…」


レンの怒りに満ちた目を見たハースはおどけるような仕草をしながら口を開いた。


「あぁ、君があの人の… じゃあ能力も使えるんですよねぇ?どうです、私を殺してみませんか。もし殺すことができれば貴方のお父さんを助けるのに大きく貢献できますよ?」

「うるさい!言われなくてもやってやる!」


レンの周囲からいくつもの武器がハース目掛けて放たれた。剣や槍、斧に鎌といったありとあらゆる形状のものが見受けられる。


「ほう… 父親よりもいいものを持っていますねぇ…」


ハースは目をつぶった。しかしレンの攻撃はどれもその刃をかすらせることさえなかった。当たらないのではない、何かに飲み込まれるかのようにして消えていったのだ。


「レン君!気をつけて!」


叫んだウィルツの方を向いたレンの鼻先を斧の刃がかすめていった。へたり込んだレンを囲むようにして次々と武器が積もった雪に突き刺さっていく。


「残念でしたー。」


ハースは相も変わらず不敵な笑みを浮かべている。そして目だけを剣を握りしめ臨戦態勢になったウィルツに向けた。


「まぁまぁ将軍様、落ち着きなさいよ。私も大事な仕事を忘れていたんでね、ここは交渉といこうじゃあありませんか。」

「裏切ったお前と交渉などできるものか!」


斬りかかるウィルツを笑顔を浮かべたままひょいひょいと避けるハース。ウェンディゴの拳によるダメージが残っているのかウィルツの剣は一向に当たる気配はなかった。


「そんな状態じゃあ私には勝てませんよ。」

「これでもそんな余裕でいられるかな?」


ウィルツは剣を地面に突き立てた。すると剣を鍔まで飲み込んだ雪の下から水が溢れだし、次第に勢いを増すその水はウィルツの体にまとわりつく。


「この姿、お前には見せたことはなかったな。話に聞いたことくらいはあるか?」

「将軍に与えられるというその剣… はたしてどのよう効果があるのでしょうねぇ。」


剣を引き抜いたウィルツはそれを脇に構え、横一文字に払った。残像さえ残さない速度で振り抜かれたウィルツの剣はハースの体を真っ二つに裂いた。ハースの顔が苦悶のそれに変わる。


「ふふ… ふふふふふふふふふ…」


すぐに笑い声が漏れ出した。斬られて分かたれたはずの上半身からは血も出ておらず、落下することもなかった。

体を上下に分けたままハースはケタケタと笑い出した。


「そうですか。まぁそもそもあなたは交渉材料にはなりませんし、ここでお別れでもいいですね。」

「何… ぐあっ…」


腹部に鋭い痛みが走り、口からは血が溢れだしてきた。ウィルツが下を向くと、自身の腹から何かが飛び出ている。それは血に塗れた槍の穂先だった。


「恨むならあの子を恨みなさい。あの子が私にこんなものを飛ばさなければ貴方も死ぬことはなかったのだから。」


突如何も無い空間から生えるようにして出現した槍に体を固定されて動けないウィルツを放置してハースは再び話し始めた。その体はいつの間にか元のようにくっついている。


「私が忘れていた仕事はひとつ。この国の子どもを連れ帰ることです。別に男でも女でも構いませんので、貴方達三人の中から一人選んでください。そうしたら残りの二人とそこのご婦人は見逃してあげますよ。」

「そんなことできません!」

「じゃああなたを殺して誰か適当につれていくしかないですねぇ。」

「そんな…」

「ほらほら、早く決めてくださいな。ここは寒いから早く帰りたいんですよ。」


絶望の表情を浮かべるオウロとは対照的に、ハースはいっそう笑顔になった。その不気味な笑顔にレンとメイアの恐怖心を募らせる。しかしワーテラだけは違った。


「俺が行く。」


それだけ言うと、ワーテラはハースの方へ歩き出した。その後ろ姿には一切の迷いが感じられない。


「ワーテラ!」

「俺はやっぱりお前らのことが許せない。お袋を殺したのがジャガルタだってことはわかってても… それでもあんたらが来なければこんなことにはならなかったんだ!」

「残念でしたねぇ。この子は自分からこっちに来たがってるみたいなんで。」


ハースは近づいてきたワーテラの手を取り笑顔で握手をした。そしてそのまま、ワーテラの手を引きちぎった。

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