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最強のお姫様の助け方 ~銀の召還姫と落ちこぼれ騎士~  作者: 笹座 昴
1章 まずは小さな火の玉から
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4話 魔方陣リトライ



 今日から、あのちびっ子たちと必死に集めた光る石でインク作りだ。楽しみに思いながら一日を過ごして、放課後ガラッと倉庫の扉を開けた。


「こんにちは!」

倉庫に響き渡る、少女の声。


 ティーポットのようなものを持って、笑顔でこちらに挨拶してくる小麦色の髪に紫の瞳の少女。こんな場所で見るはずがない、その可憐な少女を見て俺は完全に硬直した。何回か口をぱくぱくさせてから、慌てて片膝を突いて頭を垂れた。

「こんにちは……ミラベル様」

ミラベル様がなぜここに!? 心の中で盛大に動揺していると、少女の困惑する声が返ってきた。

「あのー、立っていただけますか……?」

「それはできません」

俺はきっぱりと答える。


 ミラベル・アーチモンド伯爵令嬢。俺の家――オスター家が仕えるリッツェ男爵が仕えているアーチモンド伯爵家。俺から見れば、上の上の家のお嬢様。


「あのー……」

同じ学院内におられることは知っていたが、面と向かって合うのは今日が初めてだ。なぜこんな小汚い場所に――

「立ってください!」

その命令に、俺は一心不乱に立ち上がった。

 怒った顔をしてもどうやっても可愛い、紫の瞳の少女が俺を睨んでいる。

「学院内ではデューイ様は、私の上級生です。他の方と同じように接してください。私のことはミラと呼ぶように」

「はっ」

ミラベル様はきつくそう言ってから、優しく笑った。その笑顔に「すみません」と頭を下げた。


「おい、ミラ。知り合いだったのか?」

ミラベル様に気を取られていて気がつかなかったが、センパイが椅子に座ってこちらを見上げている。

「いえ、知りません」

その言葉に当たり前だよなと思いつつも、少し心がちくっとするのを感じた。だけど、ミラ様がどうしてここにと肝心なことを聞こうとしたときに、俺の前に並んでいる男女が同じ小麦色の髪色をしていることに気がついた。


 嫌な予感がする――


 俺の顔を見て、センパイが軽く笑った。

「まぁ、ミラが知らなくてもデューイの方は知っていておかしくはない。我がアーチモンド家はオスター家の上司の上司の家だからな。でも、デューイ。あまり気にはするな。あくまで親の関係だ」

センパイのその言葉に、たらたらと汗が流れてくる。


 『我が』アーチモンド家――


「センパイ。大変申し訳ございませんが、フルネームで名乗って頂いてよろしいでしょうか……」

蚊が鳴くような声でそう言った俺を、にやにやとセンパイが見下ろした。

「ミラのことは知っていて、なぜ俺のことは知らないんだろうな。不思議なことがあるものだ」

正直に答えることなんてできるはずのない俺は、『ミラベル様は同じ学院だから、偶然知っていた』とただ嘘を繰り返すことしかできなかった。



「ロデリック様……」

あぁ、確かそんな名前だった……

 俺が守るべき主君の主君のお嬢様が同じ学院内にいることを知って、軽い気持ちで見に行った俺は、そのあまりの可憐さに驚いた。騎士としての忠誠心で心が高ぶり、その兄の存在など一瞬で忘れた、愚かな過去の自分を斬り捨てたい。

「おい、デューイ。俺のことはセンパイと呼べ」

「はい……」

「デューイ様。私はミラと。敬語も必要ありません」

ミラ様が入れてくださった紅茶が目の前にある。いや、アーチモンド家の方々が俺の目の前にいる。

「ミラ様。私のことはデューイと……」

なんとか俺はそれだけを絞り出した。



「それで、どうしてミラ様がここに……」

「兄様についに! ご友人ができたと聞きまして、今日は見に来ました!」

ミラ様はそう言ってお茶目に笑った。

 友人? その言葉に少し引っかかったが、ミラ様は笑顔だ。俺とセンパイは大親友――何も問題はないし、事実は今決まった。


「俺は、ミラに一言もそんな話をした覚えはないのだが」

「兄様が急に楽しそうなご様子で何かを始めたので、ハンスに問い詰めると、兄様にご友人ができた様子と、この場所も合わせて教えてくれました」

「皆、ミラには、驚くべき口の軽さだ」

センパイは慣れた様子でそうつぶやいた。


「で、何をなさっているのですか?」

センパイはその言葉に、ミラ様から目を逸らして無言で手元の紙を見つめた。ミラ様はそんなセンパイの様子をしばらく見つめてから、こちらを振り返った。

 俺の目をまっすぐ見つめるお嬢様の目――

「ミラ様。私たちはただいま魔法を作ろうと努力しております」

「おい、デューイ。ミラはまだデューイには聞いてもいない」

センパイの呆れる声が聞こえたが、ミラ様の視線に、俺はこれまでのことを聞かれる前に話し続けた。



「デューイ様。教えてくださってありがとうございます」

ミラ様のその言葉と笑顔に、俺は何かとてつもなく価値のあることをしたように感じて胸が詰まった。

「勿体なきお言葉です」

これが騎士道だ。

「だから、普通にしてください」

「おい、ミラ。デューイは動揺している。しばらく放っておいてやれ」

センパイはやれやれと言ってから立ち上がった。


「兄様、今から何をするのですか? 私も手伝います」

「ダメだ」

ミラ様はその声にむすーとした顔で黙った。

「ミラ。安全性は確認できていないから、危険かもしれない」

センパイはミラ様にそう言ってから、こちらを見た。

「デューイ。今から俺は外で石を砕く。しばらくミラの相手をしてやってくれ」

「危険なことをしているのですか?」

センパイは、心配そうに聞くミラ様を見て小さくため息をついた。

「ミラ。石を砕くこと自体は危険ではない。だが砕いた石に、吸い込むと危険なものが入っているかもしれない。風向きを考えて作業はするが、ミラは極力吸わない方がいい」

センパイはそう言ってからミラ様の頭を優しく撫でた。

「ミラは将来元気な子どもを産まなければならないからな。俺と違って、何かあってはいけない」

そう笑顔で言ってから、一人倉庫を出て行った。


 座ってもらおうと、扉の前で立ったままの少女の横に移動する。

「ミラ様――」

のぞき込んだミラ様の顔は真っ赤だった。



「ミラ様?」

「なんでもありません」

そう言って、ぱたぱたと扇ぐように手を振るミラ様の様子は、どう見てもおかしい。気にはなったが、ミラ様は俺が用意した椅子にちょこんと座って、こちらを見上げた。

「デューイ様」

「ミラ様、私のことはデューイと……」

「では、私のことはミラと」

じっとミラ様に見つめられる。いや、でも――しばらく見つめ合ってから、視線の圧力に流されるように俺は横を向いた。

「わ、わかりました。ミラ……」

「よろしくお願いします。デューイ」

前を向くと笑顔のミラと目が合う。その目をまともに見れなくて、俺は少し視線を逸らした。

「兄様が何をしているかご存じですか?」

「えっと、センパイが何をするのかは俺も聞いていないけど、石って言っていたから、昨日拾ってきた石を砕くんだと思う。インクの材料に使うのかな?」

「その石は危険なものなのですか?」

「いや、魔素に反応して光るだけで、危ないものではなかったと思う」

ミラが心配そうな顔で、視線を外に向けた。ミラのその様子に俺は立ち上がる。

「ミラ、俺はちょっとセンパイの様子を見てくるよ」

「私は兄様にここに居るように言われてたので、待っています。デューイ様、よろしくお願いします」

そう言って俺なんかに頭を下げたミラを見て、本当は一緒に様子を見に行きたいんだろうなと思いながら、俺は外に出た。



 センパイは倉庫から少し離れたところで、背の低い草の上に置かれた小さな椅子に座ってこちらに背中を向けている。近づいて見ると、センパイは大きな石の上で、金槌のようなものを使ってあの光る石を砕いていた。

「センパイ」

俺が声を掛けるとセンパイが顔を上げた。俺を見て、口元を覆うように付けていた白いハンカチを取って顔をしかめる。

「この体勢は、腰が痛い」

センパイはぐーっと背中を伸ばして、腰辺りを叩いた。その様子に、センパイが持っている金槌に向かって手を伸ばす。

「センパイ代わるよ」

俺の言葉に、センパイはしばらく腰をさすりながら自分の手元を見つめていた。そしてもう一度俺を見上げて首を振った。

「いや、いい」

「それそんなに危険なのか?」

「いや、危険かどうかが分かっていないから、俺がやる」

どういう意味だと、困惑していると、センパイが砕いていたものを見せてくれた。

「インクに混ぜるためには、魔素に反応する部分だけを取り出す必要がある。昨日、家で試していたんだが、この光る部分はかなり脆い。俺の力でも砕けるのはありがたいのだが、作業中はこの石の粉末が空気中に飛び散ってしまう。こういう小さな鉱石の欠片は、一度吸い込んだら二度と取ることができないから、極力吸わない方がいい」

初めて聞いた話にへえと頷く。だから、頑張ってミラのことを追い出したのか。


「じゃあ、やるよ」

センパイの持っている金槌に手を伸ばすと、避けられた。

「ダメだ」

「俺がやる方が早いだろ。それにミラが心配していた」

俺の言葉に、センパイが眉間に皺を寄せている――

「すまない」

そうはっきり言ってから、俺に向かって頭を下げた。

「いいって」

「デューイは砕く方をやってくれ、俺がすりつぶす。デューイの分のマスクも用意するからちょっとそこで待っていてくれ」

センパイは立ち上がって、倉庫の中に入っていった。



 倉庫から出てきたセンパイが、すぐ後ろにいるミラと何やら話し込んでいる。センパイがミラを突き放すように後ろを向いて、扉かから離れてこちらに戻ってきた。ミラは扉の前で、置いて行かれた子どものような顔でじっとセンパイの後ろ姿を見つめていた。

「デューイこれ」

ミラのあの表情なんか気づきもしないで、センパイは俺に白いタオルを手渡す。

「センパイ、妹と仲が良いんだな」

「ん……? まぁ、そうだな」

センパイは優しく笑ってから、口元にタオルを巻いた。



 川で取ってきた石を、大きな石の上に置いて、金槌で軽く割る。割った石の中から、光る部分だけを取り出して、容器に入れる。それを繰り返す。ただ繰り返す。

「腰、痛ぇ」

中途半端なこの姿勢。酷く腰に来る。

「手、痛い」

センパイが俺に答えるようにそう言いながら、俺の隣で、俺が集めた光る破片をさらに小さくするために棒状の石ですりつぶしていた。


 ちらりと横を見ると、まだまだ籠に光る石が山積みになっているのが見える。

「センパイ、ちょっと休憩しよう?」

「あぁ」

センパイと並んで立ち上がって、二人で同時に腰をさすった。


 マスクを口から取って、少しはたいてポケットに入れてから、倉庫に戻る。

「兄様」

倉庫の扉を開けると、ミラが笑顔で顔を上げた。

「もう終わったのですか?」

「いや、まだだ。休憩する」

二人して同時に椅子にどさっと座ってから、腰を伸ばすように背中を持ち上げる。


 俺が顔を上げると、ミラの横に座ったセンパイがミラの手元をのぞき込んでいた。

「ミラ、何をしていたんだ?」

ミラは机の上で広げたノートを一度見てから、センパイを見上げた。

「学院の課題を」

「そうか。魔術学院は楽しいか?」

「はい」

ミラが嬉しそうに笑った。笑顔で会話する兄妹の様子に首をかしげる。

「二人って家で会わないの?」

「建家が違うからあまり会わないな」

「家が2つあるってこと?」

俺の言葉に2人は顔を見合わせた。

「えっと何個だ?」

「どこで区切るか悩みますが、4つでしょうか?」

4つ……さすが伯爵家だ。悲しいくらい、どんな豪邸なのかが頭の中に浮かんでこない。俺が沈んでいる傍らで、ミラがセンパイにノートを見せていた。

「あの、兄様。この部分を教えて頂きたいのですが……」

「あぁ、いいぞ。見せてみろ」

教えるのが好きなのだろうか。センパイは楽しいそうにミラに教えていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そろそろ行くか」

センパイの声に立ち上がる。

「お気を付けて」

「あぁ」

倉庫から出て、歩きながら口元にタオルを巻き、再び金槌を握る。


 カンッ、カンッと再びリズミカルに石を割り続けていると

「デューイ、そろそろいいだろう。一度試してみよう」

センパイがそう言って、腰をさすりながら立ち上がった。

「試すって?」

「インクをだ」

センパイにこっちだと言われて、二人で倉庫に戻る。倉庫に戻ったセンパイは、石を入れた器を机の上に置いてから、がさがさと倉庫の端に置かれた箱の中を漁っていた。

「ミラ、机の上を空けてくれ」

そう言ってセンパイが机の上の空いた空間に置いたのは、インクの入った壺と、巻かれた紙。

「やるか」

センパイは楽しそうに宣言してから、インクを新しい容器に少し垂らした。そこに、粉状にすりつぶした光る石を慎重に加えて、棒で丁寧に混ぜる。

「デューイ。これに力を込めてくれ」

センパイに容器を手渡されて、慎重に受け取ってから両手で抱える。魔素を送り込むと、ぼんやりとインク全体が光った。本当に光るのかと驚いていると、センパイがこちらに手を伸ばしたので容器を返す。

 センパイはもう少し粉末を足して、再びかき混ぜた。

「量なんて、まったくわからん」

そう笑ってから、容器を置いて、横に丸まっていた紙を広げた。その4つの角に、重しの石をのせる。


 何を始めるんだろうとミラと一緒にセンパイの様子を固唾をのんで見つめていると、センパイは「あぁそうだ」とつぶやきながら、立ち上がって再び箱の中を漁っていた。取り出されたのは、定規と――

「それ何?」

センパイが持っているのは、二本の棒の根元がくっついたような形状のものだ。

「コンパスだ」

「コンパス?」

コンパスって何だと思いながら見ていると、センパイは席に着いた。

「これは円を書くためのものだ」

そう言って、二本の棒の先端を開いてから定規に当てた。そして一本の棒の先端にインクを付けてから、紙にもう一つの棒の先を置いて、くるりと器用に二本の棒を回した。センパイが手を離して現れたのは、まん丸の円だ。

「おぉ」

「すごいです」

ミラと感嘆の声を上げると、センパイは慣れた様子で大きさの違う円を7つ描いた。


 同心状の7つの円――

「これ魔方陣?」

センパイは俺の言葉に不思議そうな顔で俺を見た。

「何を描くと思っていたんだ」

センパイはコンパスを横に置いて、今度は筆を取った。そして、俺の目の前で、おもむろにさらさらと円と円の間に文字を書いていく。

「えっ!? いや――」

驚きのあまり大声をあげてしまいそうになって、慌てて口を押さえた。そんな俺の前でセンパイが紙を器用に回して、紙を埋めるように文字を書き込む。


 10分ほど経って、俺の前に現れたのは本物と見まがうような魔方陣――

「あの贋作もセンパイが作ったのか……?」

「そうだが?」

センパイはそれが何かという顔をしていたけれど、こんなあっさりと作られるものだとは誰も思わない。驚愕のあまり口を開いて魔方陣を見つめているミラの様子に、この感覚が俺だけではないとわかり少し安心する。

「火の魔方陣……」

「そうだ」

「センパイ、覚えているのか……?」

「あぁ」

魔方陣に書かれている文字は、恐らく文字だと思うが、読めないので絵と同じだ。それを丸暗記している。

「過去に見たものを模写するのは得意なんだ」

そういう問題ではない。

「ちなみに、デューイを呼び出すための手紙も俺が書いた」

手紙? はっ、俺がまんまと騙されたあのかわいい丸文字か。

「あの字、誰の字を模写したか気がついたか?」

誰の字……? 俺が知っている女子の字なのか?

「いや、わからない」

俺が首をかしげると、センパイは少し残念そうな顔をしていた。



「に、兄様。これ、火の魔方陣ではありませんか……?」

ミラの引きつるような声に、二人してミラの方を向く。

「あぁ、そうだ」

「つ、作ったってこれをですか?」

目の前で作る場面を見たのにもかかわらず、ミラはそんなことを聞いていた。

「あぁ、デューイ。やってみてくれ」

センパイは4つ角の石をのけて、机の上から紙を拾い上げて、はいと俺に渡した。相変わらずの扱いの軽さに動揺しながら、さっき作り上げられたスクロールを震えるような手で受け取る。

「魔法が発動するのですか?」

「ミラ。今はそれを検証しているんだ」

優しくそう言ったセンパイにミラはこくこくと頷いていたが――ミラはわかっていないと思う。


 少し深呼吸して、心を落ち着けて、

「じゃあ、やるぞ」

スクロールに力を込めた。


 魔方陣の端が光る。光って、それがいつもより非常にのろのろと光が文字と文字との間を伝わっていった。一番外のラインがすべて光り終えて、光った魔方陣が、端から浮かび上がった。

 慎重に力を送り続けて、呼吸も止めた俺の目の前で、魔方陣が弾けた。


「ダメだったけど、光った。それっぽく光った……」

そうつぶやいてから横を見ると、センパイが嬉しそうに笑っていた。

「そうだな。だめだったけど、進むべき方向としては誤ってはいないのだと思う」

「すげー」と俺が力いっぱいつぶやくと、ミラが凄いですと、感極まる様子でセンパイの手を握っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 センパイよりもはしゃいでいた俺たちは、落ち着いて席に着いた。

 俺らの顔を順番に見てから、センパイが口を開く。

「光の伝わり方が遅かったが、これは恐らくインクの性能が悪いのだと思う。ここは要改善だが、逆に魔方陣生成の様子がじっくり見られた。今回、ダメだったのは、本物のスクロールを使った場合と同じで3ライン目だ。恐らくそこになにかあるのだろう」

センパイはそこまで行ってから、ミラを見上げた。

「ミラ、悪いがミラもやってみてはくれないか」

ミラがいいのですかと喜びながらセンパイが作ったスクロールを受け取る。

「火の魔法だ。発動はしないとは思うが気をつけてくれ」

「はい」

ミラが左手にスクロールを持って――

「あのー……全然魔素が、伝わらないのですが……」

端から伝わった光が、途中で力尽きたように消えてしまった。

「デューイ様。何かコツがありますか……?」

ミラは不安げな顔で俺の顔を見てそう聞いた。

 コツって。そもそも魔法が使えない俺のコツに意味があるとは思わないけど、何でミラだと魔方陣がまったく生成できないのだろうか。

「ミラ、貸して」

ミラからスクロールを受け取って、もう一度力を込める。先ほどと同じように、魔方陣が浮かび上がって途中で弾けて消えた。


 センパイが俺の手元を見ながら考え込んでいる。

「まぁ、ダメな理由はまだまだ色々とあるのだろう。ミラ、気にするな。ミラの所為ではない」

肩を落としていたミラはセンパイの顔を見上げて「はい」と頷いた。

「デューイ。今日はもう遅い。解散しよう」

外を見ると、すっかり日が沈んでいた。



 窓の外から視線を戻すと、センパイが今日作ったスクロールを、適当に丸めて箱に放り込んでいた。その様子を呆れて見つめてから、振り返ったセンパイに「じゃあ」と声を掛ける。

「デューイ様。また明日」

にっこりとこちらを見て手を振るミラに、笑顔で振り返してから、俺は帰路についた。



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