3話 光のまほう
「さて、素人二人が闇雲にやってもうまくはいかないだろうから、デューイ。またやってもらいたいことがある」
センパイは再びごそごそと箱をあさって、別のスクロールを取り出した。机の上でスクロールを広げる。さっきの贋作と比べて、描かれた魔方陣が少し大きい。
「今度はこれだ」
「さっきと同じような結果になることを確認するのか?」
センパイは俺の言葉に、首を傾けた。
「あぁ、そうか……すまない。こっちは本物だ」
「は?」
本物? 本物って?
「え……? 本物?」
「あぁ、我が家のだ。盗んではきたが、こちらはバレても死にはしない」
センパイの制服が示すお隣さんの学術学院もほぼ貴族しかいないから、センパイが貴族だということは予想が付く。だから、それには驚かないが、貴族の家宝と言うべき――いやむしろ、魔法のスクロールを持っているからこそ、貴族と呼ばれるべきものを、こんなに無造作に持ってくるとは。
俺が本物の魔術師だったら、殺してでも奪っているかもしれないものだ。
「センパイ……もう少し警戒した方がいいぞ」
「俺が警戒しても無意味だ。俺は戦えない。逆に堂々としていた方が、人はこんなところに貴重なものがあるわけがないという思い込みから、気づかれないものだ」
そうかもしれないけど……すごい度胸だ。いや、開き直りすぎだろう。
「デューイが俺に何かしようとしたら俺は打つ手はない。無駄な努力はやめるべきだ」
センパイは俺がいつも腰に差している剣を視線を向ける。
「これには刃は付いていない」
学院内は帯剣禁止だ。一部の貴族の攻撃的な視線に、あまりに落ち着かなかった俺は、なんとか先生に木刀を持つ許可を貰った。それが功を奏したのか、面倒なことに巻き込まれることもなく、今日まで過ごしている。
「室内だと、魔法を撃つより剣で斬った方が早い。良い選択だと思うぞ」
考えて選んだわけではないが、この人なりに俺のことを励ましているのかもしれない。何かあったらセンパイは俺が守ろうと、軽く深呼吸をしてから、本物のスクロールと向き合った。
「これに魔素を送ればいいんだな?」
「あぁ、そうだがちょっと待ってくれ」
そう言ってセンパイが取り出したのは――筒?
「それ何?」
「これは拡大鏡だ。ここを覗いてみろ」
センパイに指示されてのぞき込むと、スクロールの魔方陣が俺の目に拡大されて見えた。
「あ、大きくなっている」
「今から、俺がここから覗いているから、この状態で頑張って魔素を送ってくれ」
魔素を送る。このスクロールは本物だ。つまり魔方陣が浮かび上がる。その状態で、魔方陣のすぐ近くに、人の頭がある――
「危なくないか!?」
「おい、デューイ。君は魔法が発動できないだろう」
まぁ、そうだ。そうだが……
「センパイ。これ何のスクロールなんだ?」
ためらいがちに聞いた俺の言葉に、センパイはただ笑っていた。
「知らない方がいい」
センパイの言葉に顔をゆがめる。段々とこの人のことが分かってきた気がする……
何度か呼吸をして、最後にふうと大きく息を吐く。大丈夫だ。俺の実力を信じろ。魔法は絶対に発動しない。自分で自分自身に何度もそう念じて、悲しくなってきてから顔を上げる。
「じゃあ、やるぞ」
「デューイ、頼んだ」
俺の手のひらの上に、センパイの頭があるような状態で俺は力を込めた。
「もういい?」
「何となく分かってきたが、あと、30回」
さんじゅう。俺は――もう――何回目だ……?
浮かび上がった魔方陣が弾けるタイミングまで完璧に掴めてきて、それと同時に次の魔方陣を生成する。それをただ延々と繰り返す。
そう、延々と、俺がそれだけを繰り返しているときに、やっとセンパイの声がかかる。
「よし。いいだろう」
さすがに疲れて、倒れるようにどさっと椅子に沈み込む。そして、視界がぼやーっと歪んで見えた。何だこれは貧血か?
「頭がくらくらする」
まさかこれが魔力切れという状態だろうか? 初めての経験だ。
「魔法は発動しないのに、体の魔素は消費するのか?」
「そうらしい」
「知らなかった」
センパイの謝るような声に顔を上げる。
「センパイちょっと休む。すぐ治る」
すぐ治るのか知らないけど、さすがに顔を上げているのも辛くなって、俺は机に突っ伏した。
一時的なものだったのか、横を向いているとかなり楽になってきた。目を開くと、センパイが心配そうな表情でこちらを覗いている。
「デューイ。これを食べておけ」
センパイがそう言って俺の手のひらに置いたのは、茶色の四角いブロックのようなものだ。
「何これ?」
「飴だ。食べると良くなるらしい。口に入れて舐めてみろ」
飴って何だ? と思いながら、センパイの指示通り口に入れる。
ころころと舌を動かすと――口に広がるのは刺すような甘み。
こんなに甘いものは、生まれて初めて食べた。
思わずがばっと体を持ち上げる。
「これって何!?」
「飴だ……食べたことないのか?」
「ない」
貴族すげぇと感動しながら、砂糖より甘いそれを一心不乱に舐める。
「本当に魔力切れに良く効くのだな。妹だけだと思っていた」
「センパイ。妹居るの?」
「あぁ」
これすげぇと思いながら、初めて食べる魔法の丸薬を味わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「センパイ。それで何かわかった?」
頭も大分すっきりしてきたので、紙に何かを書き付けているセンパイに聞く。
「スクロールに魔素を送ると、魔方陣が光り始めるが、そのときに光るのは、文字全体ではない。インクに何かが混ざっていて、その微小なものが光っている」
その説明に、センパイに拡大鏡を借りてスクロールをのぞき込む。今は光っていないからだろうが、よく分からない。
「あと、デューイ。君が出した魔方陣が弾ける条件もだいたい分かった」
「条件?」
センパイが書いていた紙をこちらに見せてくれる。そこに簡単な魔方陣が描かれていた。
「魔方陣は一つ残らず円形だ。そして、魔方陣の一番外側、この部分の描写は、俺がこれまでに見たすべての魔方陣で共通だ。魔方陣に魔素を送ったとき、まずこの一番外側の部分がこの切れ目のある端から光り出す。そして、水が外側から内側に流れるように魔方陣の外枠から光が伝わっていくんだが――魔法が弾けるのは、光が内側のこのラインを超えたときだ」
センパイが引いてくれた線と、魔方陣を見比べる。
「光は軸方向より、周方向に伝わりやすい。じわじわと広がるように見える軸方向へ光の伝達が、外側から数えて3ライン目に到達したとき、魔方陣が弾ける」
「3ライン?」
「外側から内側に向かって、文字が輪状に10列並んでいるように見えるだろう? それの外側から数えて3列目だ。この魔方陣は10だが、火のスクロールは7だ。恐らく魔法の規模と関係しているのだろう」
センパイの説明に顔を上げる。
「そんなことは初めて聞いた」
「俺もそこまで多くのスクロールを見たことがないから、推測だ」
そう言って、センパイは再び紙に何かを書き始めた。
「条件的に、デューイの魔法が発動しないのは、魔素の伝わり方に問題があるのかもしれないな。正しく魔法が使える人の発動方法を見せてもらえば、また何かわかるだろう」
センパイは筆を振って何かを考えながら、軽い口調でそう言っている。
魔法が発動したわけでもないし、何かが解決したわけでもない。でも俺にとっては、初めて何かが掴めたような気がして、心は全然軽くなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝起きて顔を洗ってから、寮の自分の部屋を出る。寮のすぐ目の前、寮長が世話をしている花壇に囲まれた小さな空き地で、今日も剣を振る。
毎年、入学時期になると毎日剣を振る俺を見て、「魔法が使えないから、剣修行か」と笑う奴がいる。何を言っているんだこいつらは。魔法が使えようが使えまいが剣を振る。それが騎士だ。
俺を見て、わざわざ笑いに来るやつに限って、俺が空き地で振っているのが本物の剣だとわかると何も言ってこなくなる。こんなところで俺が貴族を斬るわけがないだろう。末代までの恥だ。貴族という生き物がさっぱり分からない。
もちろん、貴族という奴らがそんなやつだけではないのは知っている。いや、本物の貴族であればあるほど、『男爵? 騎士? そんなもの些細な違いだ』というように、俺にも平等に優しさが降り注がれる。俺と一括りにされてしまった男爵位のやつら――その悔しがる顔を見るたびに、格の違いというのをはっきりと見せつけられてスカッとする。
無心で剣を振って、腕が上がらなくなるぎりぎりのところで止める。そして剣を鞘に戻して、服で汗を拭う。本当は上だけでも服を脱ぎたいが、以前苦情が来た。男しかいないこの寮でなぜ苦情がと俺は驚いたが、さすがに友人のロランにもとがめられて以降はやっていない。乙女だ。
休日はいつもは体が鈍らないように近くの騎士団の訓練に混ぜてもらうが、今日はセンパイに呼び出されている。簡単に水浴びをしてから、まともな服に着替えてから剣を持って学院に向かう。
学院の裏門から入ろうとしたとき、
「デューイ。こっちだ」
少しぼろい馬車からセンパイが手を振っていた。馬車に近づくと馭者が扉を開けてくれたので、礼をしてから馬車に乗り込む。
「センパイの馬車?」
「違う。借りてきた」
俺がセンパイの向かいに座ると同時に馬車が走り出す。
「今からどこに行くんだ?」
「川。少し早いけど水浴びだな」
センパイの言葉に嫌な予感がして顔が引きつった。
川の中から石を一つひろって力を込める。魔素を送っても光らないことを確認してから、「違う」と後ろに投げ捨てた。
ひとつ拾って確認して、捨てて、ひとつ拾って確認して、捨てて――
「あぁー! 頭がおかしくなる!」
「デューイ。すまない!」
「いや、絶対に悪いと思ってないだろ!」
センパイは向こう岸で、わざわざもってきたらしいテーブルを広げて、優雅にお勉強のようなことをしている。
「くそー」
センパイに文句を言っても、俺しかできないのは事実だ。濡れるのは足首くらいだが、足先から冷たさが広がってくる。一人淡々と、足が凍り付くぐらいまでその作業を続けた。
「寒い」
岸に上がると、即座にタオルが渡され座らされる。あったけーと、目の前のたき火に手を当てた。
「何かあったか?」
「ない」
「まぁ、一日で見つからないか」
一日で――その言葉で心が折れそうになる。いや、文句を言っても俺しかできない。諦めろ。
「センパイ。本当にこんなとこにあんの? 魔素で光る石とか」
センパイの探してきた情報によると、魔素で光る石というのが世の中には存在しているそうだ。ただ、別に綺麗でもなんでもないただの石であるらしいそれは、一般的に流通していない。しかも確認できるのが魔術師だけだから、この辺の近所の子どもたちが自慢気に集めているなんてこともない。
俺たちは過去の目撃情報をもとに、川辺で石探しという地道な作業をしていた。
少し休憩しようと、川の流れを見つめているとセンパイから声が掛かる。
「よし、デューイ。秘密兵器を使おう」
「秘密兵器って……?」
あるなら始めから出せよと、俺は呆れながら口を開いた。
「近所のちびっ子たちだ」
「外見的にはただの石なんだろ?」
持ってないってと伝えると、センパイはにやりと笑った。
「集めてくれと頼むと、喜んで集めるぞ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなわけで、俺たちはあの川辺の近くの村に移動した。
「ねぇ、ねぇ、石を集めたらお菓子くれるってほんと!?」
「本当だから友だちをもっと呼んできてくれ。たくさん集めたら、君にこれをあげよう」
センパイが適当に少年を捕まえて、飴を口に放りこむと、あれよあれよといううちに子どもたちが集まった。
「さぁ、諸君。俺たちはこのくらいの大きさの石を集めている」
センパイが参考として持ってきた一つの石を子どもたちに見せると、
「なんでー?」
つぎつぎに疑問の声が上がった。
「俺たちの知り合いの貴族が集めているんだ。理由は知らない」
「へんなひとー!」
「きぞく!? えらい人だ!」
わかっているのかわかっていないのか喜んでいる子どもたちにセンパイは最終兵器を見せた。
「石、30個集めるごとに、このお菓子を一つあげよう」
20人くらいいる子どもたちの全員がそれを見て、ごくりと唾を飲むのが見えた。
「来週また来るからそのときに頼む――」
「オレ、いちばん!」
男の子が走り出すと同時に、子どもたちがつぎつぎと走り出す。俺は慌てて声を掛けた。
「怪我をするなよ! 雨が降ったときは、川に行ったらだめだからな!」
センパイは元気に走り出した子どもたちを見て、気分良さそうに笑っていた。
帰りの馬車に揺られながら、センパイは機嫌が良さそうに窓の外を眺めている。
「来週はすごい数の飴を持ってこないとな。料理長にまた怒られる」
センパイの家は馬車は持っていないけど、料理長がいる家なのだろうか。それがどのくらいの規模の家なのかが、俺にはよくわからない。センパイの視線がふと窓の外から俺に移る。
「デューイ。魔法が使えない原因を解明する件だが、俺には魔術師の知り合いはいるが、魔方陣の魔素の流れ方について観察するには色々と安全対策が必要だ。まだその方法について現在検討段階というところだ」
俺だと絶対に魔法が発動しないから大丈夫だけど、普通の魔術師相手に同じことをしようとすると魔法が発動してしまう。
「発動しても危険がない魔法のスクロールを使うのが一番簡単なんだが、そんなもの我が家にはない」
センパイは考えるようにそう言ってからこちらを見た。
「すまないが、方法は考えているからもう少し待っていてくれ」
俺に真面目にそう言ってくれるセンパイを見て、この人は恐らく本物の『貴族』なのだろうと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一週間後――
「うわぁすげー数の石……」
川岸に小高い石の山がいくつあるだろうか。センパイはそれを見て、先ほどから大笑いしている。
「数えるの面倒だから、全部やろう」
センパイは気前よくそう言って、馬車の中から、飴がそれこそ山のように入った箱を馭者に取りださせた。
「長持ちするから少しずつ食えよ」
興奮のあまり、血走った目をしている子どもたちを見ながら――いや、そんなのきっと無理だろうと俺は思った。
「この世界では、飴の力はすごいものだ」
今はセンパイに頼めばくれることを知っているから我慢しているけど、初めて食べたときは本当に衝撃的だった。
「じゃあ、デューイ頼む」
「あぁ」
俺は頷いて、子どもたちが川辺に集めてくれていた一番近くの石の山に近づいて、しゃがんで石を一つ手に取る。
「なぁ、デューイ。一つずつじゃなくて、一気にできないか? ちょうど一カ所に集まっているだろう」
センパイの声に、石を拾っていた手を止めた。一気にか……
「できるけど、光る石があったとしてそれで反応するかはわからない」
「まぁ、やってみよう」
センパイに頷いて、光ったときに見やすいように石の山を少し崩した。それと向き合うように立って、力を込めるために手の甲合わせて、前に出す。
「始めるぞ」
石の山を覆うように、魔素を送る。挟んで向かい側で、センパイが俺と同じように石を見つめていた。
「だめだな」
俺のつぶやきに、「次に行こう」とセンパイがつぎの山を指した。
センパイと順番に石の山を巡っていると、飴玉を口いっぱいに入れた子どもたちが集まってきた。
「ばびやっべーぇの?」
「この中に光る石があるかもしれないから探している」
「なに――グホッゴホッ」
センパイの言葉に、少年は興奮したのか咳き込み始めた。センパイと二人で少年の背中を叩く。
「落ち着け。落ち着け」
「おちたー」
少年は口から出てしまった飴玉を見て嘆いていた。
「拾うなよ」
センパイの指摘に、少年は伸ばしていた腕を止めた。
「なぁ、光るって!?」
新しい飴玉を一つだけ口に入れて、少年がキラキラとした目でセンパイを見上げている。
「魔素を集めると光る石があるらしい。貴族様の命令で俺たちはそれを探している」
「まそ? えっ、もしかしてまじゅつしってやつ!?」
「俺じゃない。こっちだ」
センパイはそう言って俺を指した。
「すげー、まじゅつし!? オレ、はじめて見た!」
いつの間にか子どもたちに、周りをとり囲まれている。そんな期待するような目で見てもらって悪いんだが、魔法が使えないから俺は魔術師ではないと思う。
「いや、俺は――」
「デューイ」
センパイの鋭い声に、顔を上げると、センパイは軽く俺を睨んでいた。
俺はその目から逃げた。そして逃げてから――諦めて、子どもたちに向かって頷いた。子どもたちは凄くはない俺のことを、すごいすごいと褒めてくれた。
作業を再開して、子どもたちと円陣を組む。皆が真剣な表情で石だけを見つめていた。
「始めます」
そう宣言してから力を込めた。
「おぉー!」
魔素のかすかな光だけで、子どもたちの驚きの声が上がる。だけど、しばらく力を送り続けるがやはり反応がない。
「次だ」
センパイの言葉に俺は腕を降ろした。
「これじゃねーの?」
「これは魔素による光だ。俺たちが探しているのはもっと光る」
少年がへーと頷いている。
子どもたちに見守られながら作業を続ける。ときおり、「光った気がする!」と言う報告があって、確認してみたけれど違っていた。やはり、一つずつ確認しないといけないのかもしれない。そう考えながら、最後のふた山に向かった。
「じゃあやるぞ」
「おー!」
俺たちはもう元気がないが、子どもたちはまだまだ元気いっぱいだ。
その様子を見て笑ったときに、いつもと違う景色が見えた。
石の山のど真ん中、そこにある石が、ぼんやりと光っている。手を止めて、しゃがんで、徐々に暗くなるそれを左手で掴んで、力を込めた。
光っている。ありったけ力を込めると、俺に答えるように驚くくらい光っていた。
「あった……」
「すげー!」
子どもたちがぎゅーぎゅー詰めになるくらい俺の左手の周りに集まっている。
「ここ見つけたの誰?」
「僕! あっちにあった」
「探してみようぜ」
探してみるから貸してと言われて、少年に石を渡すと、子どもたちはあっという間に走り出して行ってしまった。
センパイはそんな子どもたちを見て笑ってから、座り込む俺を見てもう一度嬉しそうに笑っていた。
「これだと思う! やってみて!」
これ、これ! とつぎつぎに手渡される石に力を込める。
「やっぱ、表面つるつるで、中に何か入ってるやつだって」
「わかった!」
入れ替わり立ち替わり、足を濡らした子どもたちがこちらにやってくる。そして、俺の横に、見つかった光る石がどんどん積み上がった。
「おい、デューイ。そろそろ帰る時間だ」
センパイの声に空を見上げると、日が沈みつつあった。
「おい! ちびっ子たち。今日はありがとう! 暗くなるから帰るぞ!」
センパイの叫ぶ声に、楽しそうに石を集めていた子どもたちは少し文句を言いながらこちらに戻ってきた。
「この石もっと集めたら、また飴くれる?」
少年の言葉にセンパイはにやりと笑った。
「今度は、『マドレーヌ』を持ってきてやろう。食べたことないだろう?」
「何それ!」
子どもたちと一緒に「センパイ、それ何!?」とセンパイにつかみかかっていると、くいくいと後ろから服を引っ張られた。
こちらを真剣な表情で見上げている少女の前に、俺はしゃがんだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。さいごにもう一回光らせて。サーヤもう一度見たい」
「サーヤ嬢の仰せのままに」
「さすが騎士だ」
うるせぇとセンパイに言ってから、見やすいように光る石をその場に広げて、その前に立って体中から魔素を絞り上げる。正直に言うと、もうかなり疲れている。だけど、オスター家は騎士だ。女性の頼みを無下にすることはない。
暗くなった世界で、俺の魔素に反応して石が光った。その光が伝わるように、足元の石全体が光り出す。
「きれい! 光のまほう!」
魔法、魔法だと――子どもたちがつぎつぎと上げる声に、俺は嬉しくて、少し鼻の奥がつんとした。